君と 3

伝わってる(side N) ページ24

『皆様、会場後方のスクリーンにご注目下さい』



司会のアナウンスで会場が暗くなり、フォトムービーが始まった。
エルトン・ジョンのYour songにのせて。



静かな会場にピアノのメロディが響き渡り、佑一郎と香織の思い出の旅へと誘う。



次々と映し出される懐かしいあの頃。
時々会場から笑い声や懐かしむ声が聞こえる。



そしてフォトムービーが終わり、再び会場が暗くなる。



いよいよだ。



Butterflyの前奏が始まり、みおと俺にスポットライトが当たると、一瞬会場がざわめいた。



佑一郎と香織は顔を見合わせてる。



最初のサビはみおのソロ。
練習通り歌えるかどうかで全てが決まる。
俺のこだわりを要求した部分だ。
ここの歌い方で、この曲全体の印象が決まるから。



みおと視線を合わせ、彼女の笑顔に “大丈夫” とメッセージを返した。



みおは目を閉じて、大きく息を吸い込んだ。



そして、この上なく甘い、優しい歌声が会場を包む。



よし、完璧だ。
俺も思わず聴き入るくらい。



香織はもう泣いてる。
みお、気がついてる？



俺がコーラスを重ねると、みおの表情が和らいだ。
心地良い。
この緊張感の中でもそう感じるんだから、俺にとってみおと歌うのはやっぱり特別だ。



歌詞の通り、思い出を1つひとつ振り返るように、丁寧に言葉を紡いでいく。



思い出せばきりが無いくらい、俺の青春時代は佑一郎、香織と共にあった。
そしてこれからの俺の人生にも、2人はいる。



隣で歌うみおも、同じように思ってる。



2人を祝福する、教会の鐘を模したコーラス。
みおがそれを奏でれば、心が和み、幸せで満ち溢れた雰囲気に曲が変化する。



そしてまた、極上に甘くてあたたかい歌声に思いを託す。



ありがとう。いつまでも幸せにと。



伝わってる？
みおと俺の感謝の気持ちと、2人へのエール。



大サビ。
みおと俺のユニゾン。
みおが初めて歌った時、泣いて歌えなくなってしまった部分。



お互いの視線を合わせ、力強く優美に、とめどなく溢れる思いを声にのせていく。



みおの瞳には涙。
頑張れみお。
堪えて。
もう少しだから。



佑一郎が涙を拭ってる。
俺の胸も熱くなり、感情がこみ上げる。



みお、わかる？
伝わってるよ。
君と俺の思い。



最後、みおの美しく通る歌声が響くと、会場は拍手に包まれた。

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