ギャップ(side N) ページ8
橘さんと俺の飲み物を注文していると、大好きな曲のイントロが聞こえてきた。
ゆずの“夏色”
中学生の頃、何度も聞いた。
懐かしい。
佑一郎が歌うのか、めずらしいな。
顔をあげると、橘さんがマイクを握っていた。
へぇ、こんな顔するんだ。
体でリズムを刻みながら音楽にノッている橘さんは、さっきまでの表情を一変させていた。
少し恥ずかしそうだけど、その笑顔は子どもみたい。
落ち着いた雰囲気の彼女とのギャップに、俺の心はくすぐられていた。
そして、橘さんの歌声を聞いて、俺はいてもたってもいられなくなってしまった。
マイクを持って橘さんの隣に立ち、彼女の声に自分の声を重ねた。
橘さんは驚いて、歌うのをやめてしまったから、俺は視線で彼女に訴えた。
“一緒に歌おうよ”
“君とこの心躍る瞬間を共有したい”
俺の気持ちが伝わったのか、彼女は俺につられる様に再び歌いだした。
気持ち良さそうに、心から歌ってる。
その笑顔が俺の気持ちをさらに昂ぶらせる。
橘さんは歌うことが好きなんだ。
手にとるようにわかる。
頬が上がり、お腹から思いっきり声を出してる。
この曲が好きっていう気持ちが、彼女からあふれ出ている。
一緒に歌っていて気持ちがいい。
呼吸が合うっていうのかな。
初めて一緒に歌うとは思えないくらい、彼女と歌うのが心地いい。
不思議な感覚。
何度も体験したくなる、高揚感。
曲が終わり橘さんを見ると、彼女の瞳がキラキラと輝いていた。
それが俺はうれしくて。
なんだろう、この感じ。
自分だけの宝物を見つけた気分。
橘さん自身は気づいてるのだろうか。
子どものようにピュアで、情熱的な自分に。
落ち着いていてクールな印象の彼女だけど、内に秘めているものは全く違う。
ギャップ萌えだ…
もっと色々な表情が見たい。
そんな衝動にかられて、ガキみたいに彼女をからかってみたりした。
案の定、照れて顔を赤くしたり、軽く俺をあしらう様にツンとしたり、ころころと表情を変える橘さん。
豊かな表情と仕草に、構わずにはいられなかった。
もっと、君を知りたい。
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作者名:さら | 作成日時:2018年10月29日 0時