7色の後ろ側 5《赤》

48 ページ48

ガクンっと揺れて体がドアにぶつかる。
その衝撃で重たい瞼が少しだけ開いた。
その視界に映るのは自分で大事にかかえてる、お気に入りのレザーバッグ。

いつの間にやら乗ってるタクシーで家に向かってる。
美和が全部やってくれたんだなぁ。


あれ、お店でお金、支払ったっけ？
むしろ家までのタクシー代、足りるかな...


「あの、うちの住所まで、どれくらいお金かかります...？」

「ええから寝とき。近くなったら起こすから」


うわ、運転手さんてば関西弁。
しかもね、運転手さん。
その声、私の知ってる人に似てる。
ふふ、すごい、不思議。落ち着くなぁ。


瞼がどんどん、重くなる。

すみません、お言葉に甘えてしばらくおやすみさせて頂きます。









「おい、おーい、そろそろ起きろって」

「ん...」

「俺そこで一旦降りるから、お前こっから寝たらあかんで」

「え、運転手さん降りるの...？」

「....はぁ？(笑)
お前、ほんま大丈夫か？」

「え、ん？....え」


肩を強めに叩かれて、
もう家？思ったより早かった...なんて思って窓の外見たけど見慣れない道。

どこ？ここ？


「すんません、じゃあ伝えた住所までお願いします。
金これで足りると思うんで、釣りあったらコイツに渡して下さい」

運「はい、わかりましたー」

「おい、お前ほんま大丈夫やな？
タクシー降りたらこの鍵使って部屋入って待っとれよ？」

「んぇ？え、え...？」

運「お姉さん大丈夫？(笑)」

「着いたらこいつ蹴り落として行っちゃって大丈夫なんで、頼んます。
ほな、お前まじてこっから寝んなよ」

「ちょ、ま」


無情にも運転手さんによってドアは閉まり、見慣れた背中が駆け足でコンビニに消えていく。

寝るなも何も、血の気が引いて一気に目が醒めた。


運「お姉さん目醒めました？」

「醒め、醒めました」

運「彼の家向かってるけど大丈夫なんだよね？同僚って言ってたけど、無理矢理とか、そう言うんじゃないよね？」


運転手さんが少し探るようにバックミラー越しにこちらを覗いてくる。


「あ、はい。そう。そうです」

運「あー、よかった。そういう事も無いわけじゃないからさ。おじさん心配になっちゃって」

「ははは...」


私はもう、乾いた笑いしか出ない。

そうするとタクシーがマンションに車を止めた。


「はい、じゃあこちらまでですね。
5640円なので、はいこれお釣りね。」

「あ、はい」

運「忘れ物に気をつけて」


お決まりの言葉を私に投げかけて、タクシーは去って行った。









私をしげの家に降ろして。

49→←47

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す