夏にとける side N.K (ページ9)

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夏のピークは過ぎたように思う。

小『いつ頃暇なん？飯食い行こうや』

お決まりの文章を送れば、Aは旅行に行くからそれが終わってからにしようと言った。
たぶん俺にも土産用意してくれるんや。

Aは比較的インドアな癖して、不定期にふらっと旅行に行く。
最初は女子旅って思ったけど、毎回1人で。
俺はそんなんようせんから、素直に感心する。

小「A、こっち」

「お疲れ様」

そんな訳で約1ヶ月振りに会うAはまず俺が貸してた服を丁寧に畳んで、これまた可愛らしい紙袋に入れて返してきた。
俺のとは違う少し甘い香りの柔軟剤。

これもどうぞ言うて渡してくるのは日本酒とつまみのセット。

どこに行ったのか聞けば、今回は新潟らしい。
ええなぁ、俺スノボのシーズンにしか行った事ないわ。

「小瀧は今だいぶ忙しい？」

Aとグラスをぶつけて、ごくごく中身を流し込む俺を見て笑いながら聞いてくる。

小「あかんもう疲れたー！でも皆頑張っとるから俺も頑張るけどー」

「いい先生だねぇ(笑)」

小「文化祭もうすぐやからな、生徒も元気やわ」

「...そんな時期か」

Aが当時を反芻するみたいに、グラスの中で揺れるアルコールを眺める。

小「久しぶりに来てみぃひん？文化祭」

「え、何でよ」

小「特に理由はないんやけど。
...まぁ、丁度10年経ったとこやし」

そうやって言いながら俺はAの顔が見れんかった。

シゲが伝説残すなんてふざけた事言うてたあの曲は、残念ならが伝説にはなり損ねた。

俺らが卒業した後、シゲの歌が校内で流れる事はなく、それでもバンドを続けている神ちゃんがライブでは必ず演奏しとるって言うてて。
神ちゃんはシゲに絡まれるたびウザそうにしとった癖してほんまはめちゃくちゃシゲが好き。

Aはシゲが文化祭のステージに立ってる所を見れてない。
1年の時、俺が部活の出店出る代わりにクラス展示で教室におったから。

あの時、例えば俺が上手く抜け出してAと変わって教室におれたら。
Aの背中押して、シゲ達歌っとるから見てこいやって言えてたら。

Aは今より少しは、昔を思い出して優しい顔できてたんやろうか。
俺に向けるその笑顔が、寂しそうに見える事はなかったんやろうか。