夏にとける side N.K (ページ5)

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小「シゲと酒、飲みたかったなぁ」

そう言ってグラスに口をつけてもアルコールは流れてこんかった。
底には名残惜しい程度に残った白い泡。
前に置かれたビール瓶を揺すれば、中身は既に空やった。

「ねぇ、小瀧がそれ言うのはもう酔ってる時」

呆れた顔したAがこっちを見ながらお茶を飲む。

小「うせやん」

「本当。ほらもう、今手元にあるの何？」

小「え、台拭き」

「机周り片し出したら？」

小「...酔っとる証拠」

それはAと俺の合言葉みたいなもんで。
ここでしか交わさない言葉やから、嬉しいんやけど、悲しくもある。
それはつまり、お開きって事やから。

酔った振り...って訳でもないんやけど、アルコールの力を借りてAの肩に頭を乗せた。
頭の先で溜息が聞こえる。

「重い」

小「うっさい」

躊躇いなく押し返されたら、Aが店長に会計を頼んだ。

「帰ろ」

小「...」

「帰るよ」

小「...ん」

ここを出たら、次に会うのは多分やけど2.3ヶ月後。
俺は少しばかりわざとらしくAの方を見たけど目が合う事はなかった。

小「なぁ、濱ちゃんに見せるから写真撮ろ」

「えぇ、いいよ恥ずかしい」

小「濱ちゃんお前の事気にしてん。Aちゃん元気にしてんのかーってよう聞いてくんねん」

店を出て、解散する前にそう言うてスマホを見せる。
濱ちゃんがAを気にしてるんは本当。
ほんま濱ちゃんは優しさの塊みたいなもんやから。

ほんでそれを、Aもちゃんとわかっとる。

渋々了承したAとインカメで写真撮ったら俺のが盛れとるからつい笑いそうになった。

小「彼氏です言うて周りに見せびらかしてもええよ」

「丁重にお断りします」

ほんまこいつ、可愛いないなぁ。
そんなんでもええって言うの、俺ぐらいなんちゃう。
そんな事言えるはずもなく、Aの頭を雑に触る。

小「シゲになんか言うとく事ある？」

「今日話したばっかだから」

小「あ、せやんな」

それはまるでシゲがまだ生きとるみたいなやりとりで。
俺らはきっとまだあの時間から抜け出せてない。

この集まりやって、側から見たらそんなええもんと違うんやろう。
やから職場でいらん気、使われとる。

小「ええか」

「何？」

小「生きとるだけで、ええねん。
そんなんが、1番大事やねんで」

「小瀧先生、私はきっと誰よりもそれをわかってるよ」

小「...そやったな」

そんなんも、わかっとる。
わかっとっても言わずにはおれへんねん。

Aが目を覚まさんとずっと眠り続けたあの時の事が、俺は今でも忘れられへん。