夏にとける side N.K (ページ26)

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Aのオカンが俺の連絡先を知っとったのは、Aが眠り続ける間俺がその病室に毎日通い続けたから。

学校での様子、シゲとおる時の事、眠るAの手を握り続けるオカンに俺は話して聞かせた。

彼女がどれだけ幸せな毎日を過ごしていたか。
だから絶対に目を覚ます、このまま眠ったままなんてそんな勿体ない事する筈ないって。

Aのオカンは俺の話を聞くたびに、Aは素敵な恋人とお友達に恵まれたのねって目を潤ませて。

早く起きないと、皆待ちくたびれてるよって優しくAの頬を撫でた。

誰の願いが叶ったのか、誰の願いでもなくそれが人間の持つ力なのかわからんけど。
それでもAはそれから暫くして目を覚ました。

当時の騒がしい報道から逃げるように田舎に帰ったAに幾ら連絡しても返事はなかった。

母『小瀧くん、Aがそっちに行ってない？』

小『え、何で？お爺ちゃんの所行ってるんちがうんスか？』

母『それが、いなくて...どこにも、携帯も置いて、あの子...っ』

小『すぐ皆に連絡して探します！！！』

俺らの頭に浮かんだ共通のイメージ。

それを口に出す事なんて、怖過ぎでできんかった。
言うたら本当になってまうんやかないかって。

濱ちゃん達にも、クラスでAとよう一緒にいる奴らにも学校にも連絡して。

どこにいるかなんて正直1つも思い浮かばなくて、俺はAの事を何もわかってなかったって思い知らされたら、ペダルを踏み込む足が鉛みたいに重たなった。

さっきから川とかビルの屋上をアホみたいに気にしとる自分。

嫌でも脳裏にこびりついて離れない、最悪すぎる可能性。

あかんもう、泣きそう。

『家』

小『は、』

『家行ってや』

小『...』

『俺の家』

急に軽くなった足はペダルを踏み外して、俺は高校生にもなって自転車乗りながら転んだ。

小『...ったァ』

『うっわ！めっちゃ派手に転けたな！？』

手やズボンについた砂利を払いながら声のする方を見てええもんか躊躇う。

やって、ありえへん、幻覚？俺ってそない病んでたん？

近づいてきたのは声の主の方やった。

目の前しゃがみ込む見慣れた制服を着た友人。
特徴的なでっかい口と多すぎる白い歯に、片笑窪。

重『なぁ、お前急いでんちゃうの？』

小『...俺死んだん？』

重『アホか。死んだんは俺や』

小『...っ』

重『何泣いてんねんダッサぁ！』

小『うっ、さ、...っ』

それは間違いなくシゲやった。