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「最近予定つかなかったのは本当に忙しかっただけ？」
言葉に詰まった俺をAは見つめて。
少し視線を他所に移してからまた俺の目を見た。
「この状況、すごいね」
小「え？」
「だってここ私達の母校でさ。
私達が飲んでるのアルコールじゃなくて炭酸だよ？」
変な感じってAが笑うから、ほんまやなって俺もつられた。
小「A、最近ちょっと変わったやんな」
「え？」
小「去年の夏くらいから。
あいつ...目黒やっけ。
今でも仲良くしてるんやろ？」
目黒の名前を出せばAの瞳が小さく揺れた。
小「好きなん？」
「...よく分からない」
小「何で」
「だって先輩と目黒くんて、似ても似つかないし...」
ほんにそうやなって思った。
1度見かけた時の事を思い出してもいかにも今時男子って感じで、ガサツなシゲとは全然違う気ぃする。
「別に無理矢理前を向かせようとしてくる訳じゃないんだけど」
小「うん」
「後ろを振り返りそうになった時。
背中にね、手を添えててくれる感じなの」
それが俺と目黒の違い。
俺は進まんくて良かった。
同じ所で、ずっとAと足踏みしてたかった。
やってシゲの隣におった時のAも、シゲの事話してきた時も。
Aは幸せそうに見えたから。
小「もう後ろは振り返らへんの？」
もうシゲの事は忘れてまうんか。
「嫌だ、そんなの無理、絶対に」
「だけど」
「私達が生きてる限り、私達の時間は進み続けるからっ...」
シゲ１人を残して。
「ずっと同じ場所には、いられ、ない」
シゲがよう飲んでたレモンソーダ。
入学式で俺を見つけて嬉しそう白い歯見せて笑った。
指先だけやなくて全身で音楽を楽しんどる姿を見るのが好きやった。
幾らでも思い出せる。
そうやってずっと思っとったのに。
シゲがよう着てたバンドのTシャツは何色やったっけ。
合格祝いって俺に投げて寄越したタオルはもう、擦り切れて使い物にもならへん。
時間は俺らから、確実にシゲの存在を奪っていく。
小「...っ」
一粒涙が落ちれば、それは堰を切るようにだらだら流れだした。
Aがハンカチを渡してきたけど、その手は小さく震えとって。
顔をあげればAも同じように顔を崩して泣いとる。
小「俺ら、シゲを置いて行かな、いけへんの...っ？」
「置いて行くなんて、言い方、しないで」
小「やって、「大毅先輩はもう何処にもいないんだよ、この世の、何処を探してもいないの」
「置いて行ったのは、私達じゃない...」
小「ぅ、っ」
「大毅先輩の、ほう」
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作者名：のら
| 作成日時：2020年9月8日 12時
