夏にとける side N.K (ページ14)

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『本当に好きなじゃなきゃバレちゃうのかな』

小『知らん』

『私もフラれた』

小『は？花火の男？』

『うん』

ファミレスでドリンクバー飲みながらだらだら話しとる時やった。
店の外のイチョウ並木が黄色い絨毯を作る頃の事。

外を見ながら、また落ちたって意味もなく葉が散るのをただ見とった。

『体の関係断り続けてたら、彼がもう待てないって』

小『糞野郎やな』

俺の本音をAは否定も肯定もせんかった。

『初めては好きな人って決めてたの。
なのに好きな人がこの世界にいないなら、どうしたらいいんだろね』

俺の返事を待たずに、そろそろ出ようかってレシートを持ったAが立ち上がる。

イチョウの絨毯を踏みつけて歩けば葉が擦れる音が耳に届いた。

『大毅先輩、こういうの絶対蹴散らすタイプ』

小『...やな』

俺は彼女の願いを叶える事ができひん。
俺だけやない、世界中どこを探してもそんなんできる奴おらへん。
消えてもうた、シゲにしか叶える事ができない願い。

小『なぁ、大事なのって最初やなくて最後やと思う』

『...え？』

小『初めてを大事に思うのってわかんねん。
女やったらそんなん、特に。
やけどさ、終わりが大事やと思う。
自分の人生最後に選んだ相手って事やから』

屁理屈かもしれへん。
でも俺は、叶えられへん願いならその願いをどうにか変える事しか思いつかんかった。

『...そうかもね』

もっと早く小瀧に相談してれば良かった。
そしたらフラれる事もなかったのかも。
そう言う顔が寂しそうなのは、そいつと別れたからには見えへんかった。

笑ってもらいたい、Aにちょっとでも。
楽にしてあげたい、彼女がその寂しさや苦しみを自ら望んでいるんだとしても。

小『俺、もらうで』

『何を？』

小『Aの初めて、俺がもらう』

少し先を歩くAが立ち止まって振り返った。
俺はなんだか今日初めてAと目が合ったような感覚になった。

『自分が何言ってんのかわかってる？』

小『ん』

叶わない初めてを待ち続けるなら、それがAを縛るんなら、そんなもん俺がもらったる。

小『シゲを裏切る事になるって思うなら、俺が共犯になる』

冷えたAの手を握れば、弱々しくその手が握り返された。

ドキドキ心臓が煩い。
何度も何度も踏みつけられた落ち葉はすっかり茶色くなって、いざ踏みつけても何の音も鳴らんかった。