、 ページ12
Aの予想通り、今年の秋は一瞬で過ぎた。
校庭が銀杏臭いなんて感じたのはほんの数日の事で。
気づけばそこらの木は裸になって、風が吹けば、厚着しとっても身が縮む。
今日酒を注いだのはAやった。
熱燗を指先でつまむように持てば、とくとくお猪口に流してく。
小「あー、ほんま寒い。無理や、生きていかれへん」
「夏でも冬でも小瀧はそれ言う」
小「あったかいもん食べたい」
「え？今食べてる物知ってます？おでんって言うんですけど」
冬になる度繰り返される会話を楽しんでるのは俺だけなんかな。
だけど今日のAはなんだか気分が良さそうに見えた。
「この前さ、初めて家系ラーメン食べたよ」
小「ラーメンそんな行きたがらん癖に？」
意外と少食なAはラーメン一人前は多いけど、残したくもないからってそんな誘っても行けへん。
なのに家系ってめっちゃこってりやん。
「量多かったけど美味しかった！
なんか今時のラーメンてすごいんだなぁって」
小「ババアやん(笑)」
うっさいって横から俺の餅巾着を奪う。
何すんねんってなったけど、可愛い顔して食っとるからまぁ、許したる。
小「食えたん？」
「いや全部は無理だったんだけど、ほら、目黒くん覚えてる？
彼がね、残しそうなら食べますって」
あいつの事、忘れるわけない。
大学生ってやっぱ若いね、あれペロリといけるんだからなんて笑てるけど。
なぁ、そんなん俺全然おもんないって。
小「今でも仲良くしとんの？」
何も気にしとらんフリして大根つまみながら聞く。
目は合わせへん、合わせたら、本音がバレてまう気がする。
「そう、だねぇ...なんか、友達って感じ」
友達って何やそれ。
この歳の男女が？友達？そんなんありえへんやろ。
そんなん言うたら俺らは何なんって、なるけど。
小「相手下心あるんちゃう」
「彼大学生だよ？」
小「年上にハマる歳やんか」
「だとしたら一時的なものでしょ」
彼が仕事始める頃にはもう飽きられてるよって言うた時の顔、もっとしっかり見とけばよかった。
ほんなら、あいつの気持ちがもうちょいわかったかもしれへんのに。
「雪、見たいなぁ」
小「ん？雪見だいふく？」
「うわ、小瀧のせいで食べたくなってきちゃったじゃん」
小「単純な脳みそやなぁ(笑)」
中身のない会話が嬉しい。
必要じゃなくても今隣におれる事が嬉しい。
そうやって、これから先もずっと俺が隣におってもええやろか。
Aの手を取って俺がそう言うたら何て言う？
きっと申し訳なさそうに視線を逸らすんやろう。
あの時、みたいに。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 45人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：のら
| 作成日時：2020年9月8日 12時
