指先に魔法、耳元に宇宙《緑》

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予約時間にはまだだいぶ時間がある。
何か荷物でも届く予定だったっけ、なんて、赤い目を擦りながらインターフォンに出た。


神『すみません、予約してないんやけど今少しだけええですか』


そう言われて、無視できるわけなかった。


ガチャリと扉を開けば、さっきぶりに見る彼の姿。
すっとこっちを見る彼の力強い目を縁取る綺麗な睫毛に少し、見惚れた。


「...どうされたんですか」


声、震えてないかな、大丈夫かな。


神「雨止んだんで。傘、返しにきました」


そう言えばさっき貸したばかりの傘をこちらに差し出して。


「 真面目ですね」


相変わらず。


神「...真面目やないです」


傘を受け取るのに伸ばした手を掴まれたと思ったら、彼との距離がなくなった。


「...アイドルがこんな事していいんですか」

神「たぶん、ダメです」


そんなに背の変わらない彼の耳元に顔が寄れば、さっき見つけられなかった深緑のピアスが視界いっぱいに広がった。
宇宙みたいな深い深い緑。


神「やけど、」


彼の声が直接耳に届いて、鼓膜を揺する。
透き通るような、きれいな声。


神「Aをまた見失うの事の方が、アカンと思った、から」


ぎゅっと確かに力を込めたのに、その腕は優しくて温かい。

そっと顔を離すと不安げな瞳が私の顔を覗く。


神「A、やんな...？」


あの時彼が選んだものを私も守りたかった。
彼の、大切な仲間を。

だから名乗ったらいけない、私がAだって気づかせたらいけない。
そう、思ったのに。


「なん、で」


わかったの...？

最後まで音にできなかった私の言葉を、智洋は汲み取って答えてくれた。


神「Aの声やって思ってん、やけど、確信が持てへんくて。
やからってすっぱり諦める事をできひんくて。
...あの、キモいって思うかもしれへんけど、」


そこで智洋が一度言葉を詰まらせる。


神「...ここら辺の、ネイルサロン検索してん。
めっちゃたくさんあって、やっぱ俺が都合よくそうやったらええのにって思っただけやったんかなって、思ったんやけど」

神「Magic at your fingertipsって店の名前が目に止まって」

神「...これ、」


そう言って智洋が見せてきたスマホには私の書いたブログの記事が表示されていた。


『男性の方でも興味のある方はぜひ
指先のケアネイルからデザインネイルまで対応できます』

記事の下に添付された画像は緑の鼈甲と黒にゴールドを乗せたネイル。


『Space at your ear T.K』


智洋の事を考えて、作ったネイル。
忘れることが出来なかった、深い緑。


神「俺、自惚れてええんかな」

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