指先に魔法、耳元に宇宙《緑》

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梨「お、ネイルかわいいのつけてる」

「まぁ、うん、たまには」

梨「普段からそういうのもっと使えばいいじゃん」


本当はかわいいもの好きなんだからさぁ、なんて言って綺麗なグラデーションを描くアイスティーを飲む今どき女子は高校からの友達の梨紗。


「いいよ、似合わないもん」


久しぶりに予定が合って話題のインスタ映え飲食店に来た。
こういう所好きだけどとてもじゃないけど1人じゃ入れないから、すごく貴重。


梨「すぐそうやって言うし」


ストローの先を少しかじって拗ねた顔する梨沙は本当にかわいい。
ゆるくてふわっと巻かれた栗色の髪に小動物みたいなかわいい丸い目。
なんていうか、守ってあげたくなるような子。
...中身はなかなか強気だけど。


梨「でもさ、私がいくら言っても嫌がってたじゃん。どういう心境の変化？」

「いや、別に...」


くりっとした目で見られたら、全部見透かされてしまいそうな気がして、私は視線を逸らした。


梨「好きな人でもでき「違う！！」


思ったより大きい声が出ちゃって、目の前で梨沙が驚いたように体を硬直させる。
それでも声が響かなかったのは同世代で埋められた賑やかすぎる店内のおかげだろう。


梨「びっくりしたぁー...しかもそれ、その言い方、そうですって言ってるようなもんだよ(笑)」

「いや、本当、好きとかじゃないから」

梨「そうなの？好きになれない相手？」
　

私が否定した所で梨沙まったく納得してはいない。

好きになれない相手。
そうなのかも、しれない。
だって、私と智さんはアプリ上の繋がりしかない。


梨「あー、もしかして既婚者とか」

「違うよ」


既婚者の方がまだマシかもしれない。
だって、その人は確かにそこに存在してる訳だから。
いや、まぁ、これだとまるで智さんが幽霊みたいだけど。


梨「じゃあ、なんなのよ」

「...」


言えない。
アプリで連絡とってる相手、なんて。
どう考えたって不健全だし。

それに私の知ってる智さんははたして本当にそういう人なのか。
いくらでも嘘をつけてしまえる環境で、彼はどこまで私に本当の姿を見せてくれているんだろう。

確実のなのは、あの声だけ。
透き通るような、綺麗なあの、声。



『Aちゃん』



鼓膜を優しく揺すって、響く。





梨「...A、口元緩みすぎ」



梨沙がぽつりと何か呟いたけど、私は上手く聞き取れなかった。
いつの間にか空になったグラスを持って立ち上がる。


梨「さぁ！今日は私に付き合ってもらう予定だからね、行くよ！」


出口へ足を進める梨沙に慌てて付いて店を出た。

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