第三十話 「懐かしさ」 ページ31
*
「.......っ!
大丈夫か!A!」
『利吉さん!?』
突然現れた利吉さんは、私を庇うようにもうひとつの苦無を手に持って前に出る。
それを見た雑渡さんは顔をしかめた。
「.......邪魔が入ったね。」
「雑渡昆奈門.....どう言うつもりだ!」
「どうもなにも、彼女の腕がどれだけ上がったのか試そうとしていただけだよ。」
「そんなに殺気を向けないでくれないか?」とわざとらしく怯えるように、開いた両手を利吉さんに見せる。
そして、利吉さんは彼の"どれだけ腕を上げたのか"と言う言葉に対し、もともと寄せていた眉をさらに寄せて疑問の表情を浮かべた。
「以前Aと知り合いだったのか....?」
「彼女は私の教え子だったのさ。」
それを聞いた瞬間、利吉さんは「はぁ!?」と大きく声を上げる。
ごもっともの反応です、利吉さん.....
はは...と苦笑いしながら下を向くと、前にいる利吉さんはばっと後ろを振り向き、本当か?と私に聞こえるように呟いた。
『本当です。私が幼い頃から4年もの間、忍術や兵法....他にも色々な事を教えてもらったんです。』
「そんな重要なこと....何で教えてくれなかったんだ!」
『教える必要あります!!?』
友達でもないのに!と付け足すと、利吉さんはうぐっと狼狽える。
ほんとなんなんだこの人は。
「目の前で痴話喧嘩はよしてほしいんだけど。」
『ちっ.....!?やめてください!私たちそう言う関係じゃありません!』
あぁーもう!!と、赤くなった頬を隠しながら前で構えている利吉さんから苦無を奪い、雑渡さんに向かって投げる。
するとその苦無は雑渡さんの左肩にかすった。
「あのねぇ.....苦無は投げる物じゃないんだよ...?」
『物は使いようですよ、雑渡さん。
いつかの貴方もそう仰っていたじゃないですか。』
そう言うと、雑渡さんは目を見開くも、「そうだったね。」と、どこか懐かしむ表情をする。
城主の命で仕方なく教えていたと思っていたのに、どうしてそんな顔を.....
馬鹿にするような笑顔は何度も見たことはあるけれど、以前でもあまり見たことがないその表情に思わず目が止まる。
すると私の目線に気づいたのか、下を向いていた雑渡さんとパチリと目が合い、彼はふっと微笑んだ。
「まぁ、そっちの彼もそろそろ手を出しかねないから私もお暇するよ。」
「.......!おい、待て!」
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春の黒猫(プロフ) - 依利さん» コメントありがとうございます!すごく励みになります...頑張ります^ ^ (2020年10月12日 21時) (レス) id: aee551e7f9 (このIDを非表示/違反報告)
依利 - すごく面白いです!更新楽しみにしてます! (2020年10月11日 21時) (レス) id: ed636e8d4e (このIDを非表示/違反報告)
春の黒猫(プロフ) - 菜々さん» コメントありがとうございます。読者様が苗字を設定しない場合、元々の主人公の苗字を設定しておいて欲しいとの事でしょうか...?一応この小説は苗字と名前の設定が可能になっておりまして、あえて苗字を設定していないのですが...(・・;) (2020年10月9日 16時) (レス) id: aee551e7f9 (このIDを非表示/違反報告)
菜々 - こんにちは読みたい所ですが設定のとこ少し直した方思います参考なったら嬉しいです例えば→夢崎(名前)。こんな感じです読みづらくすみません (2020年10月8日 16時) (レス) id: ea6e979d26 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:春の黒猫 | 作成日時:2020年9月22日 16時