竜胆の花束を貴方に(煉獄杏寿郎)2

騒動 ページ37

「なんだか今日はずっと恥ずかしい…」
独り言を呟きながら病室へと入ると、天元が窓のさんにしゃがみ込んで乗っていた。
『よっ！』
「宇髄さん！どうしたんですか！？」
Aは表情を明るくすると、天元の元へと小走りに駆け寄った。
『A、お前に先に謝っとくぜ…』
「え？」
神妙な顔つきで呟く天元にAは戸惑いつつ、小首を傾げる。
「私、宇髄さんに何も嫌なことされてないで…っぇ！？うわぁ！」
Aの言葉を遮るように天元は窓のさんから飛び降り、Aの体を肩へと担ぐ。
『Aさん』
『音柱様…』
『な、何してるんですか！？』
時を同じくして、きよ・すみ・なほがAの病室へと現れたことで、途端に部屋の中が騒がしくなる。
『ちっ！見つかりたくなかったんだがな…』
そう言うと宇隨はAを肩に担いだまま、窓のさんへと足をかけた。
『どこ行くんですかー！！』
『Aさんを離してくださいぃ！』
『誰か来てくださいー！！！』
きよは半べそをかきながら、すみは天元の隊服にしがみつく。
その場を2人に任せるかのように、なほは病室の外へと駆けて行った。
『地味に騒ぐな引っ張るな』
「宇髄さん？」
Aは天元の背中側に頭がある為、今天元がどの様な表情をしているかは見えないが、その声は平坦で感情があまり読めない。
「何があったんですか？こんなこと急にするなんて…」
Aは一生懸命、天元を振り返りながら声をかける。
『話は後だ。移動しながら伝える。』
天元はAの言葉にそう答えると、すみの手を軽くいなし窓の外へとひらりと飛び出した。


Aの部屋から庭を走り門までたどり着くと、天元はスタッと門の屋根に登っり、ぴくりとした後動かなくなった。
「宇髄さん？」
急に動きを止めた天元にAは不思議そうに声をかける。
『厄介なの連れてきやがったな』
「厄介なの？」
天元の言葉を反芻し顔を持ち上げたAの目に、黒い影を纏った杏寿郎が歩いてくるのが見えた。
『Aは返してもらう。三つ編みの少女が鍛錬場に駆け込んできて、宇隨がAを連れ去ろうとしている、と教えてくれた。Aを離してもらいたい』
杏寿郎のその声は墨を溶かしたように、どす黒い怒気が滲み出ている。
『炎柱様ぁ…！喧嘩はダメですぅぅぅ！！』
そんな杏寿郎の後ろから、なほが息を切らしながら走ってくる。
「宇髄さん！取り敢えず離してください。」
Aが天元の名を口にした途端、杏寿郎の纏う黒い影が色を増した。

騒動2→←それは…4

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す