竜胆の花束を貴方に(煉獄杏寿郎)2

それは…3 ページ35

杏寿郎はAの頬を手の甲で、そっと撫でると己へと引き寄せた。
…ﾁﾘﾝ…
『む？』
己の胸元から鳴った小さな鈴の音に、杏寿郎はそっと首を傾げた。
「あ…きっと、この音ですね」
そう言うとAは、蝶屋敷内で着ている服のポッケから、赤・橙・朱の3種類の赤色と金色の糸で編まれた布で出来た小さな巾着を取り出した。
…ﾁﾘﾝ…
小さな音を鳴らしながら鈴はAの手のひらに転がり出た。
『それは…あの時の？』
杏寿郎の脳裏に、Aに渡した組紐が思い起こされた。
「はい。あの時に杏寿郎さんに頂いた組紐に付いていた鈴です。」
そう言うとAは愛おしそうに鈴を見つめながら、手のひらで鈴を転がした。
ﾁﾘﾝﾁﾘﾝと可愛らしい音がするその鈴を、Aさ再びそっと巾着に戻す。
『そうか…あの組紐は切れてしまったのか』
ポツリと言葉を漏らした杏寿郎はどこか寂しげで、Aも少し寂しげにふわりと微笑んだ。
「杏寿郎さんがくれた組紐は、ちゃんと私のお願いごとを叶えてくれましたよ。それに、あの組紐はこの巾着にしてもらったんです。」
そう言うとAは、そっと巾着を持ち上げた。
『よもや！その巾着はあの組紐だったのか！』
杏寿郎は嬉しそうに破顔すると、ふむ…と顎に指を添えた。
「杏寿郎さん？」
その様子にAは小首を傾げる。
『君の願い事というのが気になってな。』
「どんな危険な任務に行っても、杏寿郎さんが必ず無事で戻ってきてくれますように…ってお願いしたんです。」
杏寿郎の問にAは少し恥ずかしそうに答える。
『A…』
杏寿郎はそっと手を持ち上げ、Aへと伸ばす。

『居た！！』
『炎柱様ぁ！！』
『今日も訓練をお願いします！！』
その手がAに届来そうになった刹那、杏寿郎の後ろから賑やかな女性隊士達の声が響いた。
(あ、あの声…)
その声は以前、Aが鍛錬場を覗いた時に杏寿郎と訓練をしていた隊士達だった。
自分の周りの空気が固くなるのをAは自分自身で感じ、これではいけないと笑顔を作り杏寿郎に声を掛けようと、そちらへと視線を向けた。
「きょ...」
それと同時に腰を屈めた杏寿郎が、さっとAの唇を奪う。
『今夜…君の病室へ行くから、待っていて欲しい』
杏寿郎はその唇を、そっとAの耳元へと寄せ甘い囁きを流し込む。
「〜ッ」
杏寿郎が離れて行った耳を押さえ、Aはコクコクと何度も頷いた。

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