竜胆の花束を貴方に(煉獄杏寿郎)2

寄り添う2 ページ30

「なっ！こっ…これっ！！」
釣り上げられた魚が口を動かすように、ぱくぱくと口を開閉するAに、天元は愉快そうな笑い声を上げた。
『良いだろう！？煉獄にやったのは男版、お前のは女版！不慣れなもの同士、派手に仲良く読みやがれ！！』
ビシ！っとポーズを決めた天元を軽く睨みつけた杏寿郎は、Aからその冊子を取り上げた。
『こんなものAには必要ない！！』
『兄上には必要なんですか？』
杏寿郎の言葉に千寿郎がぽつりと呟くと、その場が固まった。

『千坊…男には決めなきゃなんねぇ時があんだよ…』
ふっ…と笑いながら天元がそう呟くと、杏寿郎は額に青筋を立てて天元を睨みつけた。
『宇髄…これ以上、Aや千寿郎に可笑しな事を吹き込むな…』
「『！？』」
杏寿郎の地を這うような怒りを含んだ声に、Aと千寿郎は息を飲む。
「きょ、杏寿郎さん？」
何だか一触即発な雰囲気にAは、不安げな声音で杏寿郎の名を紡いだ。
『見ろよ…お前が地味におっかねぇ声出すから、Aも千坊も怯えてんじゃねぇか』
天元はそう言うと、呆れたような声を出した。
『いいか煉獄、女ってのはな“余裕のある男”に惚れんだよ。派手な俺様みたいにな！！！』
ふふんっと天元は胸を反らし、得意げに微笑んでみせる。

「男の余裕と、嫌らしい本を読むのは意味が違うと思います。」
『なっ！！』
Aがそっと呟いた言葉に、天元は驚いた声を上げる。
『僕もそう思います。それに、兄上はその様な本を読まなくても、寛容で優しく暖かい、余裕のある僕の憧れの男の人です！！』
Aの言葉を聞いた千寿郎はそうだそうだと頷くと、グッと胸の前で拳を握り追撃の言葉を天元に浴びせる。
『あ、そ』
天元はまるで興が冷めたと言いたげに、投げやりな声を上げた。
『まぁ、派手に煉獄のことを唆したくなったら、いつでも言えよ。派手に俺がいつでも師範になってやるぜ！』
『宇髄！！！！』
天元の言葉に怒気を強めた杏寿郎の声にニッと微笑んだ後、天元は忍び特有の速さでその場から居なくなった。



『済まなかった…。煉獄家長男としていずれ嫁を娶ると考えた時に、その相手を傷つけたくはないと思っていてな。俺は鍛錬ばかりで、女子のことは何も知らん。そこで、奥方が三人もいる宇髄なら、良い師になってくれるのではと考えたのだが…』
間違っていたな、と口の中で呟いた杏寿郎は、ふっと息を吐いた。

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