竜胆の花束を貴方に(煉獄杏寿郎)2

吐露 ページ20

ずんずんとAへと歩を進めた杏寿郎は、Aの目の前で立ち止まると膝をつき目線を合わせ、ガッ！とその華奢な肩を鷲掴んだ。
『何故あんな危険なことをした！！君が殺されていたかもしれないんだぞ！！』
揺さぶるようにしながら、杏寿郎はAを問いただす。
「だっ……だって、あのままじゃ杏寿郎さんが危なかったじゃないですか！！」
『俺のことはいい！！』
その言葉にAの中で何かが切れた音がした。
「何がいいのよ！！！しょうがないじゃない！！好きなんだから！！死なせたくないって思っちゃったんだから！！仕方ないじゃん！！好きな人が傷つくの嫌なんだから！！！」
怒号とも取れるほどのAの絶叫が、その場に響き渡った。
ぜぇぜぇと肩で呼吸を繰り返すAに、杏寿郎はその大きな瞳を丸くさせている。
「あっ！……いや、これは……その……」
大声で自分の気持ちを発したAは、自分のした事に気づき頬を赤く染める。
『すまないが……俺には全うしなければならない責務がある』
杏寿郎のその言葉を聞いた瞬間に、Aの瞳は大きく開かれる。
「……良いんです。こんな場所で伝えちゃったのは、ごめんなさいですけど……。想いを伝えて同じ想いを返して貰えたら凄く嬉しい。でも、私にはそんなことしてくれる人が居るなんて…有り得ないから。ちゃんと分かってるから、大丈夫です。」
ふわりと微笑みながら紡ぐAの言葉に、杏寿郎は声を詰まらせる。
「私のさっきの言葉は、忘れてもらって大丈夫です。でも、杏寿郎さんが皆を死なせたくないって思うのと同じように、私達も杏寿郎さんを死なせたくないんです。それだけは覚えておいてください。」
『A……』
杏寿郎はそのままAが何処かへ行っていしまう様な気がして、掴んだ肩を離せずに居た。

『もしもーし。お取り込み中すみませんが、お二人共蝶屋敷へと移動してもらいます。』
何処か気まずい雰囲気が漂いだした時に、助け舟の様にしのぶが二人に声を掛ける。
『では！』
ぱんぱん！としのぶが手を叩くと、隠が現れ各々別々に蝶屋敷へと連れていかれてしまった。
(よかった……)
少しばかり気まずさを感じていたAは、杏寿郎と別になったことに、胸をなでおろしていた。

《よもや……胸を打っただろうか？》
杏寿郎は先程のAの“自分は相手から想いを返して貰えるはずがない”、“忘れて良い”といった言葉を聞いた時から、ずきずきと痛む胸に首を傾げていた。

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