竜胆の花束を貴方に(煉獄杏寿郎)2

無限列車4 ページ15

(あれ…？此処何処？)
Aは辺りを見渡す。
懐かしいような…でも、居心地の悪いような…不思議な感覚に小首を傾げながら、立ち上がる。
『A？』
「っ！？」
記憶の片隅に残る、懐かしくも何故か心が苦しくなる様な声に、Aは思わずその場に立ち尽くした。
『A？どうしたの？』
動かないままのAに、その声はもう一度呼び掛ける。
油の切れたブリキの様にぎこちなく振り向くと、そこには自分に何処か似ている女性が立っている。
「っ…お、母さん？」
上手く言葉を紡げなかったのは朧気な記憶の中でしか、そこ言葉を発したことが無いからだろうか…
『どうしたの？お父さんもお兄ちゃんも待ってるよ？ほら！』
ちらりと其方に視線を向ければ、兄であろう青年と父が立っている。
二人とも、此方に向ける視線は穏やかだ。
(だって…そんな…)
決して親族が自分に向ける眼差しは、優しいものではなかったはずなのに、向けられるその暖かい眼差しに戸惑ってしまう。
父は微笑み、此方においでと手招きをしている

(そっか……怖い夢を見てただけなんだ……)
目の前の暖かい光景に、Aは今までの事をそう結論づけた。
本当は自分は忌み子などではなく、ちゃんと愛され育てられた娘だと、そう納得すると何故か涙で視界が揺らぎ始める。

『ほら！！』
そう言うと、母であろう女性はAの腕を引き、父と兄の方へと向かおうとする。

ﾁﾘﾝ…

「ｯ!?」
己の腕から鳴った鈴の音にAは一気に、自分が今まで何をしていたのかを、はっきりと思い出す。
咄嗟に腕を振りほどいた娘に、母は驚いた表情を見せている。
「あなた達と一緒に幸せに暮らす世界を何度も夢見たけど…違う！！私が傍に居たいのは、あなた達じゃない！！」
Aがそう言うと全身を炎が包む。
『A！？』
急に燃えだした娘に、思わず母は手を伸ばす。
「お母さん、産んでくれてありがとう。辛いことも悲しいこともあったけど…産んでもらったことを後悔したことは一度もありません。試練がまだあるかも知れないけど、幸せになるから見守っててね…」
Aは揺らぐ視界の中で、出来る限り微笑んだ。



光が流れていくように落ちていく様な引き上げられている酔うな不思議な感覚が身体を襲う。
「ｩｱｱ!!?」
Aは飛び起き、ドクドクと鳴る胸を両手で包むように抑えながら、辺りを見渡す。

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