おかあさんではありません！【浦.島.坂.田.船】

むかしのはなし ページ29

昔、本当に昔、私はアイドルだった。
と言っても地方で細々と活動するご当地アイドルというやつで。
そこら辺の子より少しだけ可愛くて少しだけ歌が上手かっただけ。
それだけのことなのに私はまるでトップアイドルにでもなったかのように浮き足立っていた。
元々歌うことも大好きだし、目立つことも好きだった。
私を入れた5人のメンバーで街のお祭りで歌ったり、大きな家電量販店でイベントをやったり、それなりにお仕事もさせてもらっていた。
毎日毎日それはもう楽しくて、いつかこの小さな街から飛び出して大きな会場でライブをするのが夢だった。

けれど、それは私だけだった。

他の4人はただちやほやされたかっただけで、どんどんやる気を失っていた。
リーダーとして私は4人を説得した。
でも効果はなくて、次第に私は浮いてしまったのだ。
そのあとは女の子だけのグループにはよくある話。

「全然可愛くないくせに」
「歌も下手なくせに」

陰口を言われ、無視され、精神的にまいってしまった。

そのままグループは解散。
私は自信をなくしたまま、普通の、何も無い女の子に戻った。

けれどあの華やかな場所を捨てきれなくて。
縋るように今の仕事に就いた。


(だから、いつかはこうなると分かっていたのに)

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