天才時々天災【桃源暗鬼】 (ページ6)

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『私、今さっき着いたばっかりなんだけど………』

「文句言うな。そうと決まればすぐ出発する。仕度しろ」

『仕度も何も、身一つで行けるけど。あ、荷物ってどこにおけばいいと思う？』

無人が持つ鞄に視線を落としつつ、私はふと浮かんだ疑問を問いかけた。

戦闘向けの物もいくつか入ってはいるけど、別に今すぐ必要ってわけではない。それに、余計な物を持っていくよりも、身軽な方がいざというときに楽だからね。

ただ、寮に入るって正式に決まったわけじゃないし、かといって、空いている教室とかに適当に置いておくわけにもいかない。

どうしたものか………

『んー………とりあえず、無人の部屋に置いてていい？ダメ？』

「好きにしろ」

『やった』

無事に置き場所を手に入れた私は小さくガッツポーズする。荷物を受け取ろうと手を伸ばすも、ヒョイっと躱されてしまった。

「必要な物を持ってくる。ついでに置いてきてやるから、ここで待ってろ」

『はーい』

ローラースケートを滑らせ、瞬く間に無人は校舎の中へと姿を消す。一人残された私は門の上へと登り、空中に足を投げ出して腰かけた。

『～♪』

高いところから見る景色は絶景で、その向こうには雄大で美しい海が果てしなく広がっている。

こうやって息抜きできる時間を最近はあまり取れていなかったから、束の間の休息に身体から自然と力が抜けていく。

『………行ってもらいたい場所、か』

先ほど校長から手渡された紙を懐から取り出し、記された文字に目を通す。そこには、とある場所と、ある人物の名前が簡潔に書かれてあった。

『ふむ………』

しばらくそれを眺めた後、私は顔を上げ、考え事をしながら遠くに広がる地平線へと視線を移した。

風に揺れる木々の音だけが耳に入り、この世界から自分だけが隔離されたような、不思議な感覚に襲われる。

キラキラと海に反射する太陽の光が眩しくて、私は少しだけ目を細めた。大きな翼を広げた鳥が気持ち良さそうに波と戯れている。

『………』

突如、少し強めの風が吹き、私の髪をいたずらに拐っては海の向こうへ消えていく。靡いた髪を手でそっと抑えた後、誰に聞かせるわけでもなく、私はポツリと呟く。

『“一ノ瀬四季”、ねぇ………』

小さな呟きは風に乗って空へと運ばれ、海の彼方へと消えていった。