天才時々天災【桃源暗鬼】 (ページ43)

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少年の口から伝えられた過去は概ね私の想像通りのものだった。彼は桃太郎である父親に家族も憧れも全て奪われたらしい。

ここに来たときから気になっていた腕の傷は、その親に刻み込まれたそうだ。それも、腕だけではなく全身に。

まだ幼い子どもに………なんて、酷いことを。

「全ては父親を殺すために！そのためなら死ぬのなんて怖くないんだよ！」

なんとか拘束から抜け出し、復讐の炎が宿る瞳で無人を睨む少年。彼の身の上話を聞き、さらにその悲痛な叫びを聞いた私は息苦しさにも似た痛みを覚える。

「ガキが何言ってんだ？はき違えるなよ？」

少年が起き上がった瞬間、無人は少年の後頭部を掴み、勢い良く地面に叩きつけた。

あまりの衝撃に地面がクレーター状に抉れ、石が四方へと吹き飛ぶ。顔面を強打した少年は朦朧とした意識で仰向けに倒れた。

その容赦のなさに同情するが、こればっかりは仕方ない。だって、彼は本気で怒らせてしまったんだから。

『………無人』

少年たちからは見えないだろうけど、私には額に青筋を浮かべた無人の顔が見える。

普段、表情を崩すことのない無人が彼に対して本気で怒っていた。言葉の節々からも、その感情が読み取れる。

今、私が少女の面倒を見ていなかったら、私も無人と同じようなことを少年にしていただろう。

まあ、私の場合、怒りと同じくらいの悲しみが入り乱れているから、少し躊躇しちゃうかもだけど。

『っ』

無意識に震える指先に気づいた私はバレないように強く握ってそれを隠す。

最近、こんなのがずっと続いていたからか、少し堪えきれなくなっていたみたい。いつもだったら、ちゃんと堪えられているのにな。

『………ふぅ』

無理やりにでも気持ちを落ち着かせるため、私は深呼吸を繰り返した。

「死ぬのが怖くない」なんて………そんな言葉、子どもの口から聞きたくない。未来あるこの子たちから聞いていい言葉じゃないんだ。

自分の命を投げ出すような真似は絶対にしてほしくない。簡単に失われていい命なんて、始めからこの世に存在しないんだ。

「それでも………俺は………」

震える手を伸ばし、うわ言を呟く少年。そんな彼を見た無人の顔が哀愁の色を帯びる。目を閉じて何かに想いを馳せた後、無人はゆっくりとその目に世界を写した。

「目標のために死ぬな。目標のために生き抜け。それが分からないなら、お前に明日はない」