天才時々天災【桃源暗鬼】 (ページ42)

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_____数分後

「これが実戦ならお前は死んでいるぞ」

勝負は一瞬で片がつき、傘に拘束された少年を見下ろした無人は淡々とそう告げた。あまりの手際の良さに隣で見ていた少年が舌を巻く。

「く………！まだだ！まだ終わってない！」

あれだけ自信満々だったのにも関わらず、私にあっさりと敗北し、無人にも完敗した。彼のプライドはズタズタになっていることだろう。

拳を握り締め、なんとか拘束から抜け出そうと踠く少年。だけど、傘は地面に深く突き刺さっており、少し苦戦している様子。

………簡単にはいかないと思うけどね、脱け出すの。だってその傘、わりと重いからさ。経験者からのアドバイスだよ。

「必死だな。そんなに父親に会いたいか？」

ふと無人が溢した言葉が少年の耳に届いた瞬間、少年の動きがピタッと止まる。少年の纏う空気が一変し、瞳の奥に暗い影が過ったのを私は見た。

「何で知ってる………」

「ある程度調べさせてもらった。ほかにも知ってるぞ。例えば………」

無人はそこで言葉を切り、黙って少年を見下ろす。冷たい雨が皆に等しく降り注いだ。

「お前の父親が桃太郎ってこととかな」

『！』

雨音にかき消されることなく、無人の言葉が森の中に響き渡る。

あの子の父親が桃太郎………あの少年と一緒ってことか。親が桃太郎でその子どもが鬼。

『………なるほどね』

どうして彼があんなに冷たく育ったのか………その理由に私は少しだけ納得がいった。

おそらく、彼の父親はあの子のような優しい親じゃなかったんだろう。むしろ、あの子の親の方がイレギュラーだったんだから。

こういう話はよく耳にする。正直、もう何回聞いたかわからない。特段、珍しい話でもないからだ。

桃太郎は傲慢でプライドが高く、正義感を振りかざす馬鹿が多い。そんな奴らが、もし自分の子どもが鬼であることに気づいたら………取る行動は一つしかない。

『………』

“我が子を手にかける”

どうせ鬼は死ぬ運命。誰かに殺されるくらいなら………という自分勝手で、愚かな、親の愛とかいうエゴ。そんな厄介な代物、子どもからしたら迷惑なことこの上ない。

ある日、突然向けられる自分への殺意。大好きだった親が豹変し、憎しみの籠った目でその刃を振り下ろす。彼らが受ける絶望は計り知れない。

………きっとあの子も、そんな悲しい被害者の一人だったんだろう。