天才時々天災【桃源暗鬼】 (ページ39)

今日:271 hit、昨日:363 hit、合計:19,099 hit

38 ページ39

少女の容態を案じた少年が足を動かした途端、身体がぐらついて地面に倒れ込む。何が起きたかわからない様子で少年はじっと手のひらを見つめていた。

元気いっぱいだったあの子にも、とうとう限界が来たみたいだね。初めてにしては上出来だったよ。

「脱力感で体が動かないだろ」

「！」

『あれだけ高濃度の血を打ち込んだら、誰でもそうなるよ。血が足りないんでしょ？』

同時に現れた私たちに驚く生徒たち。一応、今この瞬間も鬼ごっこは続いているから、彼らにとってみれば最悪のタイミングだろう。

やっと一つの壁を乗り越えたと思った途端、もう一つの壁にぶち当たったんだから。まあ、今後はこんな感じのが続いていくわけだし、早く慣れてもらいたいのが本音だけどね。

「っ………」

悔しげに無人を見上げた少年は力を振り絞って身体を起こす。その様子は生まれたての小鹿のように震えていた。

「無理するな。目も霞んでいるだろ」

「全然、余裕！」

真っ青な顔で見栄を張る少年。貧血ゆえの虚ろな目はあらぬ方向を向いていた。本人的には無人の方を見て喋っているらしいけど、周りから見れば木に向かって喋っているヤバイ奴だ。

誰がどう見ても余裕そうには見えないけどね………私としては強がってる様子もかわいくて好きだけどさ。

『いいから休んでな。血を使い過ぎたら最悪死ぬよ？』

「ええ！？」

「四季はその辺のコントロールがまだまだだな」

予想通りの反応を示し、またもや地面に倒れ込んだ少年。こんなところで無理しても、なんの意味もないからね。素直でよろしい。

『さてと………おチビちゃん。おチビちゃん、聞こえる？』

少年のことは無人に任せ、私は少女の側に膝をつき声をかける。気絶していて意識がなく、私の声は届いていないようだ。

主な原因は血を流し過ぎたことだけど、それになんらかのストレスも加わって、さらに悪化しているみたい。保健室に運ぶのが一番良いんだろうけど、身体に余計な負担が掛かるかもだし、無理に動かさない方が良さそうだね。

とりあえず、保健医に連絡して_____

『おっと』

その瞬間、自身に近づく嫌な気配を感じ、私は少し屈んでそれを避ける。

すぐさま顔を上げると、先ほどまで私の首があった場所に鋭利な刃物が飛んできていた。