天才時々天災【桃源暗鬼】 (ページ37)

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ワッ!!

「っ………！」

その一方で、空中に身を投げ出したままだった少年は次に来る攻撃の予測を誤り、巨人の咆哮を正面から受けていた。

大きく息を吸い込んだ予備動作が何かを吐くためのものだと思ったんだろう。実際、あの子は両手を顔の前で交差し、防御体制に入っていた。だけど、それで防げるのは物理的な攻撃のみ。

案の定、その咆哮は直に少年の鼓膜へと突き刺さり、耳から大量の血が吹き出た。おそらく、鼓膜が耐えきれずに大破したんだろう。

鬼の血の回復力ですぐに治るとはいえ、耳をやられたのはかなりの痛手だ。今はまだ訓練だし、私たちがいるから大丈夫だけど………実戦においてはそうも言っていられない。

その負傷がどれだけ戦いに影響を及ぼすかは未知数。最悪の場合、死に直結することもあるだろう。自分だけでなく、周囲を危険に晒すこともあるかもしれない。

………彼には、もう少し緊張感を持ってもらわないとね。

「(ここらが限界か………)」

3人の中で唯一、血を操れたあの子でも巨人相手には全く歯が立たなかった。少女のタイムリミットが近づく中、生徒たちの限界を悟った無人は身体を屈め、乗り込む準備を始める。

だけど………

『待って』

カチッと仕込み針を出した無人の手を私は咄嗟に掴んだ。止められるとは思っていなかったのか、少し驚いた顔で私の方を見る無人。

無人のこんな表情はそうそう拝めるものじゃないからね。しばらく眺めていたいところだけど………それだと、意味ないからさ。

『大丈夫だよ。あの子がケリをつけるから』

笑みを浮かべた私の視線を不思議そうな顔で追う無人。血管が浮き出るほど強く拳を握り締め、不適に笑う少年の姿がそこにあった。

右の拳一点に集中し、その指の隙間からは血が滴り落ちている。先ほどとは違った雰囲気を纏う少年を見て、無人も私の言いたいことに気づいた様子。

「まさか………」

信じられないといった様子で無人がポツリと呟いたその瞬間、少年の血が形を変えた。