天才時々天災【桃源暗鬼】 (ページ34)

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『まったく、元気なのは良いことだけど元気すぎるのも困りもんだね………そろそろ15分経つだろうし、行こっか？』

「………そうだな」

私は肩を竦めながら薄暗い森の中を見渡す。先に行った生徒たちを追いかけるため、入口へ向かおうと足を動かしたとき、後ろから無人に腕を捕まれた。

「A」

『何？………あ』

名前を呼ばれて振り返ると、私の手のひらをじっと見つめていた無人の姿が視界に入る。

徐々に止まりつつあるものの、木屑が刺さった箇所からは赤い血が流れ、強く握った際にできた爪痕が手のひらにくっきりと残っていた。

『………あー、ごめん。全然気づかなかったわ。よく気づいたね。ありが_____』

「無理するな」

咄嗟に取り繕うための笑みを浮かべるが、それすら見透かしたような目で無人は私を見る。多分、無人なりにさっきの校長の話を気にしているんだろう。

読まれたくない時に限って心を読んでくるんだから、本当にタチが悪い。どれだけ隠そうと努力しても大抵こうなってしまう。

だけど………その優しさが今はとても嬉しかった。

『大丈夫。心配してくれてありがとね』

「………何かあれば言え。抱え込むなよ」

安心させるように私は素直に心の内を伝える。まだ何か言いたそうな表情だったけど、無人はようやく腕を放してくれた。

ぶっきらぼうな言い回しも、それに込められた意味がわかるから少しだけ気持ちが軽くなる。

『………うん、わかった』

これ以上、無人に余計な気を遣わせるわけにはいかない。無人のお荷物となるくらいなら、私はここにいない方がいい。

だから………諸々の考え事は一人になってからにしよう。今度は、悟られないように。

『まあ、元気がないなんて私らしくないしね。無人もそう思うでしょ？』

「………お前はいつもうるさいけどな」

『ねえ、今日私に対する当たり強くない？？今朝久しぶりに会ったばっかりだよね？？』

「行くぞ」

『おいコラ、無視するな！』

逃げるようにこの場を後にした無人の背中に向かって私は叫ぶ。ローラースケートの良さをこういうときに発揮するなんて………無人の方が十分子どもだよ、まったく。

『はあ………ありがとね』

小さく呟いた言葉は無人に届くことなく消えていく。先ほどよりもどこか軽い足取りで私は無人を追いかけた。