天才時々天災【桃源暗鬼】 (ページ31)

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鬼ごっこが始まり、3人が森の中に入っていくのを見届けた後、私たちは約束の15分が経過するのを待っていた。

『～♪』

私は木の枝に腰かけ、上機嫌に鼻唄を歌いつつ、3人が消えた方角を眺める。下にいる無人は相変わらず鍛練に時間を費やしていた。

『あ、蝶々』

もう少しで9分が経過しようとしたとき、黒い小さな蝶が私の元へやってきた。空に手を伸ばすと、ヒラヒラと羽をはためかせて私の指に止まる。

『ふふ』

綺麗な羽を優しく撫でた後、私はもう一度空へと放つ。

蝶々はゆっくり下に降りると微動だにしない無人の頭の上に止まった。そのままパタパタと羽を動かしているが飛び立つ気はない様子。

じっと一点に集中している無人の頭に蝶々が止まっている様子がなんだか面白くて、私は微笑ましい気持ちでそれを眺めていた。

「今日は学校説明だけじゃなかったー？」

突如森に響いた声に蝶々はパッと飛び立つ。肩越しに見下ろすと、木を挟んだ無人の後ろ側に校長が立っていた。

私たちは振り向くことなく、お互いに背を向けたまま会話を続ける。

『いつからそこにいたんです？』

「ついさっきだよ。初日で課題なんてさすがだねー」

「説明で1日消費するより、訓練する方が有意義ですよ」

「優しいね。全部あの子たちのための言葉だ」

いつものおちゃらけた雰囲気は鳴りを潜め、神妙な面持ちになる校長。真剣な話をするんだと私は瞬時に察した。

「年間多くの鬼が殺されてるけど、ほとんどが子供。血縁に鬼がいるだけで殺される子も多い。生きたまま連れ去り研究の道具に、て例も………」

校長の言葉が静かに響き、辺りはシンとした空気に包まれる。近くに他の子たちがいなくて良かった。こんな話、絶対聞かせられない。

校長の話は全て事実だ。だからこそ、その事実が重くのし掛かる。

子どもが一番殺される理由は簡単。大人の鬼と比べて抵抗する術を持ってない場合が多いから。

鬼の血も覚醒していない子どもたちは桃にとって格好の餌食。親が子を必死に庇い、運良く逃げられたとしても、1人で生きていくにはこの世界は過酷すぎる。すぐに捕まってしまうだろう。

『………』

それに、「血縁に鬼がいるだけで殺される子も多い」と校長は言った。それが何を意味するのか………考えるだけで胸が痛む。

取り返しのつかないことを桃は平気でやっているんだ。本当に………本当に反吐が出る。