天才時々天災【桃源暗鬼】 (ページ19)

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「はあ………そもそもここは_____」

ため息をついた後、パッと手を離した無人は再び少年に向かって話し始めた。

島のことや羅刹学園のこと、これからの生活のことなど様々な話を簡潔に、かつ、順序よく説明していく無人。

途中で口を挟んだ少年が無人の傘に顔面をど突かれたり、情報過多で知恵熱を出した少年が無人に馬鹿にされたりと、いろいろ世話しなかったが、一応必要な説明は終わらせたようだ。

「………どうした？何か言いたいことがあるようだが」

『いえ、なんでもないです』

………私？私はもちろん黙ってたよ。こんなところで死にたくないしね………そうそう、頭の痛みは無事に引いたよ。やったね。

「正直、まだよくわかんねぇことばっかだけど………ツーかそれより！」

私たちの側でやり取りを見ていた少年が突如そう言って身体を起こす。

その瞬間、一連の説明をただ聞いていただけだった少年の雰囲気がガラッと変わった。今までのとは全く異なり、瞬時に真剣な顔つきになる。

「俺は強くなれるのか………！？親父殺したあいつをぶっ殺せるくらい強く………！」

穢れのない少年の瞳が私たちの方へと向けられた。

これから先もずっと続くと信じて疑わなかった、平穏な日常が壊された今日。自身の命を懸けて少年を桃から守り、無惨にも殺されてしまった彼の父親。

その2つを同時に奪われた幼い少年。父親の大きな愛に守られ、何も知らされずに育った少年は世界の過酷さを突如として突き付けられた。

復讐に燃えるその瞳が私の隣にいる無人へと真っ直ぐ向けられる。

「お前次第だが、そーなってもらわなきゃ退学だ」

背を向けて立つ無人は少年の方を振り向くことなく、そう言い放つ。

壊れた窓から少し肌寒い風が吹き込み、私たちの間を通り過ぎていった。外から差し込む太陽の光が少年の顔を優しく照らしている。

『………』

淡々と返された言葉に隠された意味を少年が知るのはまだ遠い先の話。

「強くなれんなら願ってもねぇ！学校でもなんでも入ってやる！」

どす黒い復讐心に呑み込まれることなく、ただひたすらに前を向くその姿勢がとても眩しく見えた。

あの澄んだ瞳を真っ黒に染める日が来なければいいと、切に願う。

『………期待しているよ』

羅刹学園入学試験

一ノ瀬四季、合格