天才時々天災【桃源暗鬼】 (ページ11)

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「ここじゃ人目につくな」

私が工事現場に足を踏み入れたとき、無人はそう言って少年の首に手刀をくらわせた。

それをもろに受けた少年は簡単に意識を手放し、声を出す間もなく倒れ込む。地面につく寸前で少年を受け止め、その身体を私はそっと横たえた。

「簡単に背後を取られるなんてな。減点！」

持ってきた入試採点記入表に容赦なく“Ｃ”と書き込む無人。

私はあくまでも付き添いだから、この子の審査は全て無人に任せている。それに、さっき私のわがままを聞いてくれたから、あまり強くは言えないんだけど………もう少し優しくしてあげてもいいのにね。

そもそも、無人が本気を出せば大抵の人は簡単に背後を取られるんだからさ。そこんとこ、ちゃんと自覚しているのかな？

「審査するだけ無駄かもな………」

『そんなこと言わないの。せっかく鬼の血が目覚めたんだから』

思っていたよりも期待外れだったのか、ため息をつく無人をやんわりとたしなめる。無人が少年のことを見ている間、私は男性の側へと膝をついた。

虚ろな目には光がなく、確認のために脈を測ったものの、全く動いていなかった。開いたままの男性の瞼をそっと閉じ、手を合わせて祈りを捧げる。

………願わくば、この人の来世に幸多からんことを。

『………』

ふと目を開けて横を見ると無人も同じように祈りを捧げていた。初めて会った時とは随分と変わった無人の姿に少し胸が温かくなる。

「………なんだ」

『ううん、何も』

私の視線に気づいたのか、目を開けてこちらを見る無人。微笑ましい気持ちで眺める私を横目で流し見た後、無人は立ち上がった。

「集まってきたな」

『そうだね。さすがに時間切れみたい。私がお父様を運ぶから、その子をお願いね』

簡単にではあるものの、綺麗にしたご遺体を私は丁寧に抱きかかえる。魂が抜けたその重みが私の腕に直に伝わってきた。

「代わるか？」って言ってくれた無人の申し出をありがたく思いつつ、私は『大丈夫』と言って断る。

確かに、無人ほど力に自信があるわけではないけど、人ひとり持てないわけではない。これでも多少は鍛えているからね。成人男性一人くらい余裕だよ。

「行くぞ」

『うん』

少年を担いだ無人に続き、上空のヘリコプターに姿を見られないよう、私たちは静かにその場を後にした。