天才時々天災【桃源暗鬼】 (ページ2)

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月が綺麗な夜のこと。

闇にまぎれて町を移動していたとき、懐にある携帯から着信音が鳴った。人気のないビルの屋上で足を止め、画面に表示された文字を確認してから電話に出る。

『はい』

「やあ、A君。久しぶりだね。元気？」

『お久しぶりです、校長』

電話の相手は羅刹学園の校長。久しくかかってこなかった電話だけに少し驚いた。

といっても、それほど長い年月は経っていないはずだけど………毎日慌ただしく過ごしてるから、いまいちわかんないんだよね、正直。

その後も軽い世間話_____という名の一方的な話を聞きながら、適度なタイミングで適当に相槌を打つ。

時折、「ちゃんと聞いてる？」って校長に聞かれたけど、『聞いてます』と返し続けた。

「ところでさー、A君。今、暇でしょ？」

『本気でそう思っているなら、吹っ飛ばしますよ』

「ごめんごめん」

いきなり投下された爆弾発言に思わず本音が飛び出た。相変わらずの校長の態度に若干呆れながらも、私は本題を促す。

「実は、君に頼みたいことがあってね。戻ってきてくれない？」

『頼みたいこと………ですか？』

「うん、そう」

校長の言葉を聞き、私は少し考え込む。

実を言うと、何かを頼まれるのは今回が初めてではない。たまにではあるものの、こうやって電話がくる。ちょうど一仕事終えたところだから、引き受ける分には問題ないだろう。

どうせ私には拒否権ないし………まあ、仮に拒否権(それ)があったところで、よっぽどのことがない限りは使わないけど。

『………わかりました。私に伝えるってことは、もう話は通してあるんですよね？』

「もちろん。話が早くて助かるよ」

『慣れてますから』

少し皮肉を込めて言葉を返すも、当の本人は気にも留めてないらしく、ただただ笑っている。

「詳しいことは来てから話すね」

『了解です。近いうちに向かいますんで』

「うん。気をつけてねー」

簡単に今の状況を説明した後、別れの挨拶を告げて電話を切った。再び携帯を懐にしまい、目的地を目指して隣の建物へと飛び移る。

思いがけず訪れた久しい者との機会にどこか安堵してる自分がいた。相変わらず、元気そうで何より。

『………アイツも元気にしてるかな』

夜空に浮かぶ大きな月を見上げ、懐かしい顔を思い浮かべる。小さな笑みを溢し、私は闇の中へと身を潜めた。