【6/12】 ページ9
※首絞めの描写があります。
＊＊＊
「ねえ、私こんなに愛されてるんですよ」
「……」
ドヤ顔でスマホの画面を見せてやれば、貴方は心底つまらなさそうにそれを見た。
「そんな人気者を独り占めなんて罪な男ですよ、貴方は」
「……今日は、僕を怒らせたい気分なの？」
私がここに来てから初めて発した貴方の声は、苛立ちで満ち溢れていた。私の気まぐれは今に始まったことじゃないでしょう、と笑ってやる。
「悪いけど、僕だって気まぐれなんだ。今日はそんな挑発に乗る気分じゃないんだよ」
「残念」
嘘。怒ってなきゃ、そんな棘のある言い方しない癖に。本当、素直じゃない人。
……そんな可愛げのないところが最高に好きなのだけれど。
「……まあ、このツイートをした彼女の愛も、こっちで長文お気持ち表明してる彼の愛も、福良さんのそれに比べればちっぽけなものですよね」
「――！」
言いながら、あれ、河村さんが「執着」している男の人の名前って福良拳で合ってたよね？ とちょこっと不安になったが、彼の反応を見るにどうやら正解だったらしい。
「そろそろ、あの人は私を忘れた頃ですか？」
「――っ、ああもう、どうして君はっ……！」
「あは、なんで怒鳴るんですか？ 私は気になったことを質問しただけなのに」
挑発に乗る気分じゃない、って言った直後にこれだよ。画面越しじゃ気付けない、貴方の単純なところ。ああ、本当に大好きだ。……
「いい加減に、しろ」
「わ、っく、るし……」
いつの間にか、河村さんの体は私の目の前にあって。不意に呼吸が苦しくなって、首の辺りまで目線を下げたら、貴方の手があった。白く細い手に青筋が浮かぶくらいに力が込められていて、ああ首を絞められているのかとようやく理解した。
「……か、むらさ、くるしい、ですよ」
「…………」
「っはは、なん、で……私より、そっちのが、苦しそーなカオしてんですか……」
河村さんの手は震えて、力が入り切ってなかった。怯えてるんだ、自分が誰かを傷つけることに。
ならこんなことやめてしまえばいいのに、私に対して殺したいほどの怒りを抱いたのも本当だから、もう、どうしようもなくなっちゃってるんだ。ぐちゃぐちゃになった感情に呼吸のリズムを崩されて、口から酸素を取り込むので精一杯なんだ。
……あー、愛おしいな。
「なんでそんな、恍惚とした表情ができるの」
「……ふふっ」
意識が遠のく。白い光がちらちらして、ああ、河村さん、キレーだな。
「君なんか、大嫌いだ」
知ってる。
―――
――
―
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 113人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ユメ(プロフ) - うなぎさん» 引き込まれるなんて嬉しいです！最後まで楽しんでいってください！ (9月26日 7時) (
レス) id: 8ed95612e3 (このIDを非表示/違反報告)
うなぎ(プロフ) - あと3話で終わってしまうなんて…とっても引き込まれてます！そして考えさせられちゃいます。後悔のないよう、ちゃんと感想を伝えようと思いました。結末を楽しみにしてます！ (9月25日 22時) (レス) id: 794a390090 (このIDを非表示/違反報告)
ユメ(プロフ) - うなぎさん» 夢作家をしていて良かったと心から思えるような、嬉しいお言葉の欲張りセットみたいなコメントをありがとうございます！しかも密かに憧れている作者様からのコメントだなんて、もうこの喜びをどう表現していいものか……。本当に感謝です！ (9月9日 18時) (レス) id: 8ed95612e3 (このIDを非表示/違反報告)
うなぎ(プロフ) - kwmrさんとfkrさんの掛け合いが楽しいし、ymmtさんは可愛いし、sgさんの誠実さに胸がいっぱいです！読みやすいお話たち、すきです♡お話が増えるの、楽しみにしてます！ (9月9日 15時) (レス) id: 794a390090 (このIDを非表示/違反報告)
ユメ(プロフ) - misakiさん» コメントありがとうございます。どれか1話は、どこかの誰かに刺さるように、という思いで色んな話を書いているので、ぶっ刺さっていただけて大変恐縮です……。ご期待に添えるよう今後も精進して参ります！ (8月28日 7時) (レス) id: 8ed95612e3 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ユメ | 作成日時：2023年5月15日 3時
