【3/7】 ページ29
「でもAがいるなら大丈夫かな」
「何が？」
目線を上げてこうちゃんの顔を覗き見る。垢抜けた、なんて世間の人は言うが、私はあまりそうは思わない。いや、数年前の彼の写真と今の彼を並べられれば確かに「うわ、変わったなあ」とは思うのだが、如何せん私はずっと彼の近くにいたので、アハ体験よろしく少しずつ変化していき、気付いたらなんかこうなってた、という印象が強い。
そんな私の認識とは裏腹に、彼を見る周囲の……特に女性の目は確実に変化していた。要はモテるようになった。メディア露出が増えたこともこれに拍車をかけていた。
何もしなくても「こうちゃんの一番」でいられる期間は、とうに過ぎている。「こうちゃんの一番」を本気で、全力で狙っている人がいる。今日話しかけてきた後輩ちゃんもそうだ。
……嫌だ、と思った。私はこうちゃんにとって一番の存在でありたいのだと、ここ一年でようやく自覚した。それは、恋心の自覚と同義だった。
「いや、俺がいなくなっても会社は大丈夫かなって」
「何急に。私に仕事押し付けて寿退社とかやめてよ？」
そして、行動を起こさなくてはその恋は実らないということも、同時にわかった。高校生の頃、私たちの関係が何も変わらなかったのと同じように。
何かしないと。でもいつ？ 今更焦って動かなくても、今日明日で何か変わるわけじゃないんだから……なんて思っているうちに、ズルズルと一年も経ってしまったのだから驚きだ。
やっぱ、このままじゃダメだよなあ……。
「寿……ではないけど、会社辞めるんだ、俺」
「……え？」
「このままじゃ、ダメだと思って」
「え…………？」
ぐら、世界が傾く、錯覚。
「もう伊沢さんとか河村さんにも相談してて……あ、引き継ぎとかはちゃんとやるよ！」
「な、なんで……？ 何か会社で嫌なことでもあったの……？」
「え！ ないないないない！ それだけはぜっっったいにない！」
こうちゃんがこの言い方をするってことは、本当にそういう理由ではないのだろう。……そして、嫌でもないのに辞めると――辞めようと
「辞めないでずっといるってことは簡単なんだけどさ、辞める決断をできる時にしないとダラダラ続けることになっちゃいそうじゃん。それで……」
正直、その後何を話したかとか、運ばれてきたデザートの味とか、全く覚えていない。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 113人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ユメ(プロフ) - うなぎさん» 引き込まれるなんて嬉しいです！最後まで楽しんでいってください！ (9月26日 7時) (
レス) id: 8ed95612e3 (このIDを非表示/違反報告)
うなぎ(プロフ) - あと3話で終わってしまうなんて…とっても引き込まれてます！そして考えさせられちゃいます。後悔のないよう、ちゃんと感想を伝えようと思いました。結末を楽しみにしてます！ (9月25日 22時) (レス) id: 794a390090 (このIDを非表示/違反報告)
ユメ(プロフ) - うなぎさん» 夢作家をしていて良かったと心から思えるような、嬉しいお言葉の欲張りセットみたいなコメントをありがとうございます！しかも密かに憧れている作者様からのコメントだなんて、もうこの喜びをどう表現していいものか……。本当に感謝です！ (9月9日 18時) (レス) id: 8ed95612e3 (このIDを非表示/違反報告)
うなぎ(プロフ) - kwmrさんとfkrさんの掛け合いが楽しいし、ymmtさんは可愛いし、sgさんの誠実さに胸がいっぱいです！読みやすいお話たち、すきです♡お話が増えるの、楽しみにしてます！ (9月9日 15時) (レス) id: 794a390090 (このIDを非表示/違反報告)
ユメ(プロフ) - misakiさん» コメントありがとうございます。どれか1話は、どこかの誰かに刺さるように、という思いで色んな話を書いているので、ぶっ刺さっていただけて大変恐縮です……。ご期待に添えるよう今後も精進して参ります！ (8月28日 7時) (レス) id: 8ed95612e3 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ユメ | 作成日時：2023年5月15日 3時
