【1/8】魔法の呪文は、たぶん5文字くらいだ【tm】 ページ18
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【101回目】
「だ、大丈夫、ですか？」
私の隣を歩いていた彼がふらり、と不安になる動きをしたので、慌ててその体を支える。ホームドアなんてないような、田舎の駅。落ちはしないだろうが、彼が私よりホーム側を歩いていたこともありちょっと心配になる。
「ああ、ごめんなさい。ちょっとふらついちゃいました」
「え、それ本当に大丈夫ですか？ 熱中症とか……」
「ああいや、そういうんじゃないんですけど……」
でも、この暑さですよ。言いながら空を仰ぐ。夏にしては珍しく、雲の少ない空。その頂点に君臨する太陽はまるで、真っ青な世界にぽっかりと空いた穴みたいで。
――その穴が、彼を吸い込んでしまいそうで。
「……落っこちないでくださいよ」
「わかってますって」
まさか、「落っこちないで」の目的語が「太陽」だとは思いもしなかったのだろう。口では生意気なことを言いつつも、素直に私の忠告に従うように、彼はホームから少し離れる。
……必然、彼から見てホームの内側を歩いていた私との距離が近くなる。彼の左腕と私の右腕が僅かに触れた。
「……あっ！ ごめんなさい」
慌てた口調。驚いたように見開かれた目。けれど、それと裏腹に、彼は私から離れようとしない。
……まるで、私が拒否するかどうか、確かめるみたいに。
思えば、私と彼はいつもお互いに距離感を探り合っていた。私とほぼ同期入社した彼には、柔らかい人懐っこさと、思わず畏怖してしまうような神秘的な美しさが同居していて。近づきたい、と思ったし、近づきがたい、とも思った。
向こうも向こうで、そんなどっちつかずな態度をとる私の扱いに若干困っているようだった。
だから私たちは、まるで剣の達人が相手の間合いを見極めるみたいに、慎重にお互いの距離を測っていた。「そこの書類取って」なんて小さなお願いを聞いてくれるか。休憩時間に世間話を吹っかけてもいいか。飲み会で隣の席に座っても嫌な顔をされないか。
Web記事の執筆ために、こんな田舎の駅に一緒に来て、撮影に協力してくれるか。私に任せられた仕事で、彼には全く関係のないことに、わざわざ。
とむさんは今、私の目をじっと見つめていた。まるで「私はAさんに、どこまで近づいていいですか？」と問いかけるように。
それは、言葉にこそされなくても、私たちの間で幾度となく繰り返されてきた問いかけだった。
「……」
だから私は、その目を見つめ返した。ふわ、と彼は笑う。畏怖するような美しさの代わりに、抱きしめたくなるような愛おしさを含んだ微笑みだった。
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ユメ(プロフ) - うなぎさん» 引き込まれるなんて嬉しいです！最後まで楽しんでいってください！ (9月26日 7時) (
レス) id: 8ed95612e3 (このIDを非表示/違反報告)
うなぎ(プロフ) - あと3話で終わってしまうなんて…とっても引き込まれてます！そして考えさせられちゃいます。後悔のないよう、ちゃんと感想を伝えようと思いました。結末を楽しみにしてます！ (9月25日 22時) (レス) id: 794a390090 (このIDを非表示/違反報告)
ユメ(プロフ) - うなぎさん» 夢作家をしていて良かったと心から思えるような、嬉しいお言葉の欲張りセットみたいなコメントをありがとうございます！しかも密かに憧れている作者様からのコメントだなんて、もうこの喜びをどう表現していいものか……。本当に感謝です！ (9月9日 18時) (レス) id: 8ed95612e3 (このIDを非表示/違反報告)
うなぎ(プロフ) - kwmrさんとfkrさんの掛け合いが楽しいし、ymmtさんは可愛いし、sgさんの誠実さに胸がいっぱいです！読みやすいお話たち、すきです♡お話が増えるの、楽しみにしてます！ (9月9日 15時) (レス) id: 794a390090 (このIDを非表示/違反報告)
ユメ(プロフ) - misakiさん» コメントありがとうございます。どれか1話は、どこかの誰かに刺さるように、という思いで色んな話を書いているので、ぶっ刺さっていただけて大変恐縮です……。ご期待に添えるよう今後も精進して参ります！ (8月28日 7時) (レス) id: 8ed95612e3 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ユメ | 作成日時：2023年5月15日 3時
