10 ページ10
・
・
“ しーな 、だいじにするからぼくから離れていかないでね 、 ”
身体の節々に昨日の恋を持て余していた 。アルコールを飲んだ次の日みたいな二日酔い 、あるいは酔いの名残りが静かに息をしている 。北人の体温 、息遣い 、指 、舌 … どのワンシーンを脳内に浮かべても 、じんわりと身体の芯がゆっくりと熱を帯びていく 。
「 おかえり 、Aちゃん 」
ドアの向こうからひょこっと覗いた機械的なただ笑顔を形作っているだけの微笑み 。脳があの雄猫の媚びるような厭らしい声に従え 、さもなくばと悲鳴に似た声を上げている 。脳はいつでも理性より正しく 、身体は既に竦み上がっていた 。
「 ぁ 、ぁ … っ 、ぉと … さん 、 」
「 何でそんなに震えてるの ? (笑) もう痛い事はしないよ 、でもこの前はお父さんの言う事を聞かなかったAちゃんが悪いよね ? お父さんの言う事は絶対だよね ? … A 」
「 は 、い … 」
「 Aちゃんは本当にいい子だね 、そうやってお父さんに歯向かいさえしなければもう痛い事はしないって約束してあげるよ 。 ほら 、お父さんとの約束事は ? 」
「 ぃ 、ち … お 、おとこのひとと 、したしくしない 、に 、おかあさんのはなしはしない 、さん 、おとうさんのいうことはぜったい 、 」
家庭のなんとなくの異常性に気付くまでにそこまで時間はかからなかった 。何日も家に帰って来ない両親と口数の少ない家政婦さん 。時折帰って来たかと思えば知らない香水を漂わせて 、ソファーの隙間に埋もれたイヤリングにも平気で知らぬ顔を貫き通す安っぽい母親 。そして 、ある日を境に父の私への態度は一変した 。お母さんが他の男の人と一緒に姿を眩ませたのと同時に私を “ 女 ” として求めてくるようになったのだった 。ドアの向こうからひょこっと顔を出しては時間なんてお構いなしに何かしら自分の要求を突き付けてくる 。年に数回の母とは違い 、月に数回ほど帰宅する父が怖くて怖くて仕方がなかった 。
.
424人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
みお(プロフ) - 面白いです!更新楽しみにしてます! (10月12日 17時) (レス) @page16 id: 53a16e4f6e (このIDを非表示/違反報告)
saku8124974(プロフ) - 最高です🥹 (2023年1月7日 22時) (レス) @page7 id: 113282aa35 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:栞奈 | 作成日時:2017年12月18日 16時