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「 好きな人って一体誰な訳 ? 」 と 、一思いに聞く勇気はあいにく持ち合わせていなかった 。明日この腐り切った世界がひっくり返してもそれはきっと 、いや絶対 、俺じゃないから 。喜怒哀楽に加えて “ 恋 ” という感情には他のどれよりも疎ましい俺は他人の気持ちを慮ることでさえも四苦八苦している 。俺に下された有り触れた平凡な日々はどこか暗く淀んでいるようにも思えた 。





「 樹って案外独占欲が強いタイプだったりする ? 」





小難しい本に目を走らせる北人くんがポツリとそんなことを尋ねてくる 。縁の細い眼鏡の奥から覗く瞳の欲しがるものが未だに掴めない 。北人くんはいつも何を考えているのかが分からない 。だから怖い 。北人くん自身の思考と言動がはっきりしないからこそ 、俺の頭の中での北人くんの全体像がぼやけてしまうのだ 。




「 …… そういうの聞いちゃう訳 ? いい性格してんね 、本当 (笑) 俺 、よく分かんないんですよ 。そういうの 。恋ってしたことないんで 」

「 そう 。俺にはそう見えるよ 。樹は独占欲が強そう 。それで樹には好きな子がいるよね 」





その言葉で一人だけ 、頭にぼんやりと浮かび上がる少女がいた 。それを見抜くように唇のほとりに微笑みを浮かべる北人くんが 「 当ててあげようか 」 とレンズ越しにしっかりと俺の姿を捉えた 。





「 … いないよ 」

「 本当に 、樹は嘘をつくのが下手なんだね 。… 好きでしょ ? ずっと前 、僕に話してくれた幼馴染みのこと 」





心臓がぴょんと飛び跳ねた 。胸がドキドキ張り詰めてくるのを感じる 。あの日 、Aの好きな人を聞けなかった意気地なしが今更恋心を自覚したってどうしようもない 。北人くんの口角が満足気に上がる 。





「 でもさ 、樹の幼馴染み 、実は僕のすきな子なんだよ 」





その瞬間 、頭の中が何かに射抜かれたような気がした 。薄汚れた白色が俺の頭の中を埋め尽くしていく 。 「 … は ? 」 やっとのことで絞り出した俺の情けない声に北人くんの唇が歪んでいく 。胸が激しく波打ち 、膝は訳もなく震え始めていた 。


 



 
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みお(プロフ) - 面白いです!更新楽しみにしてます! (10月12日 17時) (レス) @page16 id: 53a16e4f6e (このIDを非表示/違反報告)
saku8124974(プロフ) - 最高です🥹 (2023年1月7日 22時) (レス) @page7 id: 113282aa35 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:栞奈 | 作成日時:2017年12月18日 16時

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