花葬と、青。 (ページ15)

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「 …… 一人暮らしする頃にはもうこうやって樹に慰めてもらわなくても済むようになるといいな。ねえ、そういえば私ね、好きな人が出来たの」

　

　
泣きそうな衝動を抑えて二の句を継ぐ。その言葉に「ふーん」と空返事を寄せる樹に目をやると、その眉間は少し曇っていて、故に樹の手が離れた。あの子が好き。嘘つきだから好き。掴めそうで掴めないから。それは北人だ。北人と身体を重ねる時は精神的な幸福が私を満たしてくれるのだ。身体の芯がじくじくと熱を持て余して、骨の髄まで “ 吉野北人 ” に支配されるあの瞬間に私の杜撰で一方的な愛を幾度となく降り注ぐ。

「お前、恋とかするんだ」

樹のその言葉の後には少しの間があった。時計の秒針が静寂を支配する中、私はゆっくりと口を開く。「どういう意味？」そう聞き返してみても樹の視線がこちらに向くことはなかった。

「まあ、いいんじゃないすか。お前ももう子供じゃないんだし。… 勿論俺もね」

「ふーん。そういう樹は？いないの？好きな人」

「あー、別に」

樹の含みを持たせた言い方に少しの違和感を抱いた。大した返事も返って来ないあたり、どうやらスマホのゲームに夢中になっているらしい。樹の優しさには少し棘がある。彼は幼い頃から少しぶっきらぼうな所があり、何となく隙のない、芯の冷たさからか溶け込めないものを感じる瞬間がある。

「告白くらいはされるんじゃないの？」

「こないだされたけど。同じクラスの … 誰だっけ、あの、黒髪ロングで清楚な子」

「ああ、もしかして佐藤さん？ …… はあ、あんなに可愛い子がこんな無愛想なヤツ好きになるなんて …… 」

「俺あの子と話したことないんだけど。俺はあの子のことよく知らないし、逆にあの子は俺の何を知ってんの？話したこともない男の何を好きになれんの？そういうの、気持ち悪くね？」

少しの心当たりのある私には耳の痛い言葉だった。薄っぺらい感情を好意に書き換えて相手に押し付ける。それはいつしか身勝手に “ 恋 ” へと変貌を遂げる。これほど一方通行なものはない。北人は私の何を知ってて、私は北人の何を知ってる …… ？

私、北人のこと何も知らないんだ。
　

　

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