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土曜日の朝 、目が覚めると父のキャリーケースが消えていて 、リビングの机の上には乱雑に三万円が置かれていた 。当分は帰って来ないという安堵にほっと胸を撫で下ろした 。夕方頃に鉛のように重い足を引きずりながらほんの少し歩いた先にある樹の家へと訪れた 。特に何か用がある訳でもなかったのだが 、インターホンを鳴らして間もなく音も立てずにひっそりと細く開いたドアの向こうからは不機嫌そうな樹が顔を出した 。
「 いつき ! おひさ ! 」
私の姿を見るや否や魂も一緒に抜け出ていきそうな深い溜め息をつかれてしまった 。 「 … はいはいおひさ 。早く上がりなよ 」 グイッと力強く引かれた手首と 、樹の大きな背中に何故か妙に感心した 。
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「 私高校卒業したら一人暮らししようかな 。どこかで適当に家借りてさ 」
「 … 親父さん ? 」
こちらに向かって首を傾げる樹は 、私の生まれ持っての家庭環境をよく知っている 。ただ 、お父さんが都合よく私を性の対象にしていることについては知らない 。身体の奥から湧き上がる希死念慮 、または果てしない憎悪をどこにぶつけていいのかも分からずズルズルと18年間 、宛もなく歩き回っている 。
「 ほら 、お父さんに頼りっぱなしっていうのもダメでしょ 。大学に進学して 、適当に …… 」
「 お前さ 、俺にまで建前使うの ? 」
思わず口を噤んだ 。奥行きの全くない 、ただの板切れでも耳に押し付けているような沈黙が居た堪れない 。勘のいい樹は私達二人の不自然なやり取りに秘密を隠していると直感したのだろう 。 「 なんでそんなこと言うの 、 」 ポツリと呟いた独り言をそっと拾って 、樹は不意に私の肩を抱き寄せた 。
「 ……… 俺の前くらい 、別に無理しなくていいんじゃないの ? 」
樹と私の身体の間には 、空気の分子すら入れたくない気持ちだった 。
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みお(プロフ) - 面白いです!更新楽しみにしてます! (10月12日 17時) (レス) @page16 id: 53a16e4f6e (このIDを非表示/違反報告)
saku8124974(プロフ) - 最高です🥹 (2023年1月7日 22時) (レス) @page7 id: 113282aa35 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:栞奈 | 作成日時:2017年12月18日 16時