ふたつのこころ

猫と手 ページ10

「帰ろう。」



終令が鳴ると、

拓実は野球部のスポーツバッグを下げて、

Aの席に駆け寄った。



初めこそ、

拓実のドギマギした様子に

クラスメートたちも冷やかしていたが、

次第に二人の様子に慣れて、

普段通りとして何も言わなくなった。



Aは



「うん。帰ろう。」



と小さく返事をして、

拓実の後ろ姿についていった。



拓実の家は高校から

自転車で十五分ほどの距離だった。



晴れの日は自転車、

雨の日は歩いて登校する。



Aは電車通学で

高校から駅まで十五分ほど歩く。



拓実はこの定期テスト週間、

Aを駅まで送った。



駅までの道は二方向あり、

大体の生徒は松が並んだ

舗装の甘い駅までの近道を歩いていく。



一方、カップルたちは人目を避けるように、

もう一方の遠回りの道を選ぶ。



拓実も当然のごとく後者を選んだ。



野球部や友だちに

一緒に帰っている姿を見られたら、

絶対に冷やかされる。



Aに恥ずかしい思いを

させたくなかった。



でも、きっと冷やかされても、

Aはくすくすと笑うだけだ。



恥ずかしい思いをさせたくない、

というのは、ただの名目で、


拓実はただ自分が照れ隠しをして、

余計なことを口走ってしまわないかが

不安だった。

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