最初で最後の花火大会７ ページ17
いつの間にかあたりは暗くなってきた。
多摩川は深い藍色になって、ザーザーと音を立てて流れていた。
携帯を見ると、19時をちょうど過ぎたところだった。
「花火は何時から？」
彼女は先程買ったポテトフライをもぐもぐと食べながら聞いた。
「19時半だよ。もうすぐだね。」
もうすぐだ、
俺の言葉が宙に浮いて、蒸し蒸しした空気に滲み出して、まとわりつくようだった。
もうすぐ。
花火が始まって、終わる。
花火は悲しい。
何だか小学生のころに行った花火大会を思い出す。
今日みたいに蒸し暑い夜。
ズラリと並んだカラフルな出店。
普段出歩かせてもらいえない遅い時間に街を歩くワクワク感。
キンっと頭に響くかき氷。
花火大会の会場は観客でギュウギュウ詰めで、大人たちの背中で見えないな、と必死に背伸びをしていると、お父さんが黙って抱っこしてくれた。
パンパンと上がる花火。
潮風にのってやってくる火薬の匂いが鼻腔をくすぐる。
妹は花火の大きな音にびっくりして、泣いていたけど、俺も幼いながらに、花火の風情を感じて泣きたくなってしまった。
この花火が終わると、夏が終わりに近づく。
花火の光の粒が消えていくのと同じように、今という時間は記憶となって闇に消えていく。
何だか…寂しく、悲しい。
ずうっとこの時間が続けばいいのになって、キラキラ光る星に祈ったりもした。
でも今日は、そんな寂しさじゃない。
この花火大会が終わったら、俺はその寂しさに耐えられるのかな。
ふと、我に返った。
白昼夢のように小学生の頃を思い出してぼーっとしていた。
「あれ？」
現実に戻って横を見ると、先ほどまで隣でポテトフライをかじっていた彼女はいなかった。
ぐるっと回って辺りを見渡すが、彼女らしき姿はない。
薄暗くて見えづらく、人も多くて、似たような浴衣を着た女の子も多かった。
赤の帯に朝顔と金魚の柄。
いた！
「Aちゃん！」
「え？何ですか？」
肩を掴んだ女の子は別人だった。
不審者を見るような目で俺を見ている。
「すみません。人違いでした…。」
俺はペコリと頭を下げて、また辺りを探した。
いない。急にいなくなった。
俺は動揺した。
早足になる。
「まじか…。どこ行った？」
このまま一生会えなくなるんじゃないかという不安が頭をよぎる。
手のひらに汗がにじむ。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 187人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ののん(プロフ) - oMINoさん» ありがとうございます!!悩みながら書いていたので、お褒めの言葉が胸にしみます…(TT） (2020年9月11日 21時) (
レス) id: b70c73754c (このIDを非表示/違反報告)
oMINo(プロフ) - 最高すぎます…読んでて泣いた作品ははじめてです(T . T) (2020年9月10日 17時) (レス) id: 9e8439352b (このIDを非表示/違反報告)
ののん(プロフ) - ユキさん» ありがとうございます！私も與那城くんの他の作品を読みたいのですが、なかなか見つからず…(;_;)ページ数も余ってるので番外編書けたらいいなと思います(^o^)豆ちゃんの方も読んでいただき、嬉しいです…！ (2020年7月3日 16時) (レス) id: b70c73754c (このIDを非表示/違反報告)
ののん(プロフ) - ふみかさん» 前作から読んでいただき、ありがとうございます！無事完結できて良かったです(;_;)次回のお話も是非是非よろしくお願いいたします(^^)今日か明日ぐらいにアップ予定です！ (2020年7月3日 16時) (レス) id: b70c73754c (このIDを非表示/違反報告)
ユキ - 奨くんmainのお話って結構少なくて…作って下さったののんさんホント神です！短くても良いので筋肉の再会後の大人のお付き合いも読んでみたいです^_^豆ちゃんの方もボロッボロに泣きました 笑 こんなに良い作品に出会えて幸せです(*´ω｀*) (2020年7月3日 0時) (レス) id: afcfe9e2ad (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ののん
| 作成日時：2020年6月10日 19時
