特別 ページ40
俺はオレンジ色に照らされた彼女の手をとった。
つるんと白い小さな手だった。
４月の初めに会ったときのように
爪がきれいに切りそろえられていた。
彼女は先ほどまで堂々とした態度で話していたのに、急に長いまつげ下に垂らして伏し目がちになった。
「フィナーレイベント見てた？」
俺が彼女を見つめて言った。
「見ていました。」
彼女は呟くようにポツリと返事をした。
「告白、断りきれなかったんだ。」
「知っています。」
「知ってる？」
彼女の言葉選びに違和感があって聞き返した。
「與那城先輩はあのステージに苦い思い出があります。」
「え、知ってるの？」
「はい。参考文献で読みました。」
「いやいや、文献には載ってないでしょ。」
俺が笑うと、彼女もクスッと笑った。
「私の記憶が正しければ、
昨年も與那城先輩はあのステージで
告白されていました。」
俺は黙って頷いた。
「そして、與那城先輩が断った瞬間に
大ブーイングが起こりました。」
「そう。」
「私は昨年もあの場所にいました。
浪人生でしたから、こちらの大学の文化祭にたまたまいたのです。」
「そうだったんだ。」
「まだその時は、ライブハウスで歌う與那城先輩と同じ人物だとは気づきませんでしたが。
なんだか賑やかでしたので、記憶に残っていました。」
彼女が眩しそうにブラインドを見つめた。
「私は…
與那城先輩があの子に告白をされた時に告白を受け入れたのは、きっとあの時の苦い記憶があったからだと思いました。あのステージで断るのはご法度だと。」
彼女がまた顔を伏せた。
彼女がギュッと俺の指を握り返した。
「『だからあえて受け入れたんだ』と強く信じました。
そうでないと…
自己肯定が出来ませんでした。」
言葉尻が震えたように聞こえた。
「Aちゃん？」
顔を上げた彼女は
潤んだ瞳を俺に向けて
美しかった。
「でも、録音していた與那城先輩の歌声を聞くと、胸が痛みました。
與那城先輩があの子の告白を受け入れたことは、事実なのです。私は何故胸が痛むのか、その理由を考えました。
理由はすぐに分かりました。
私が與那城先輩の『歌声』を好きなだけなら、ただ好きなままでいいのです。
私は…もう與那城先輩の『歌声』を特別だと思っていたのではなかったのです。與那城先輩『自身』を特別な存在だと考えていたのです。」
彼女はまっすぐ俺を見つめた。
「與那城先輩は私のことをどのように思っていますか？」
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ののん(プロフ) - コメントありがとうございます!!これからも更新頑張ります^^ (2020年4月21日 23時) (
レス) id: b70c73754c (このIDを非表示/違反報告)
りさ(プロフ) - 大好きです！これからも更新楽しみにしてます(^^) (2020年4月20日 23時) (レス) id: f70137444b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ののん
| 作成日時：2020年4月20日 21時
