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私は車から動けないまま、その人が近づいてくるのを見ている。
私に待ってて、と声をかけたその男性は、自分の車を端に寄せると、足場の悪い岩も気に留めず、あっという間に私の横へとやってきた。
「あらー、ガッチリ岩と岩に挟まってんね!あ、でも、車自体は…うん、動きそう」
彼は私の車の状態を一通り確認すると、パッと手が差し伸べられた。
「えっと…?」
「とりあえず、一回車から降りよっか、危ないしね」
彼は変わらず私を促すように手を出していて、にっこりと微笑んでみせた。
その笑顔に釣られるように、気づけば私は彼の手を取っていた。
「ログイン名は?」
彼は私が無事に車から降りきったのを確認すると、そう言ったが、私は“ログイン名”という聞き馴染みのない言葉に首を傾げた。
「あ、知らない?そっか。じゃあ…名前!なんて呼べばいい?」
「名前は…A、です。A」
私が遠慮がちに言うと、彼は「Aちゃんね」と繰り返した。
「Aちゃん、怪我はない?」
「はい、大丈夫です」
「良かった、良かった!じゃあ、ちょーっと下がっててね!」
彼は、そう言うと、ひょいと私の車に飛び乗った。
そういえば、彼の名前を聞けていない。
「あの…」
控えめに声をかけると同時に、彼も私を振り返り口を開いた。
「Aちゃんは下で待っててね!大丈夫、できるだけ壊さないようにするから!」
彼の人懐っこい笑顔と冗談に私は言葉を飲み込んで、岩場から降りた。
少し離れたところからギアやいくつかのボタンを操作する彼を見上げる。
その間、他のプレーヤーが私の横をスピードを出して、通過していく。
他のプレーヤーたちは、あのぬかるみをどうやって超えてきたのだろうか。
それに、彼も。
その時、ガシャン!!と大きな音が響いた。
「わっ…!!!」
「おーっと…!ハハッ、ちょっと強引だった?」
振り返ると、岩と岩に挟まってわずかに宙に浮いていた私の車が地面に戻っていた。
「びっくりした…あ、大丈夫ですか?怪我とか…」
私は車から飛び降りた彼に近寄り、声をかける。
「全然へーき!エンジンもかかってるし…うん、ちゃんと走ると思うよ」
「ありがとうございます…!」
彼は誇らしげに笑って見せた後、ぐっと私に近寄った。
表情もさっきまでの笑顔とは違って、少し戸惑う。
彼は、こちらをうかがうように、眉をあげて、ゆっくりと口を開いた。
「Aちゃん、聞きたいことがあるんだけど…」
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Nono(プロフ) - soboroさん» soboroさん、コメントのお返事がとっても遅くなってしまい、ごめんなさい…!楽しみに待っていただき、そしてこのページに遊びに来てくださりありがとうございます!! (2023年3月27日 21時) (レス) id: b787eddcb9 (このIDを非表示/違反報告)
soboro - 更新ありがとうございます!密かに楽しみに待ってたのでとっても嬉しいです! (2022年11月15日 0時) (レス) @page26 id: fea91e615b (このIDを非表示/違反報告)
Nono(プロフ) - momoさん» momoさん、コメントありがとうございます…!確か、以前にもコメントをいただいたかと思うのですが、長い間待っていただいて本当にありがとうございます!改めて楽しんでいただけるように頑張ります!よろしくお願いいたします!! (2022年9月19日 19時) (レス) id: 2d0e74762d (このIDを非表示/違反報告)
momo(プロフ) - ずっとお話の更新待ってました、!めっちゃ嬉しいです! 無理のない程度に頑張ってください!本当に更新ありがとううございます!! このシリーズのお話ホントに大好きです! (2022年9月18日 23時) (レス) @page18 id: 6dd93aac59 (このIDを非表示/違反報告)
Nono(プロフ) - 紗奈さん» 紗奈さん、こんにちは!コメントありがとうございます!過去作品も楽しんでいただけてとても嬉しいです…!!今作も楽しんでいただけるように、頑張りますね…!!ぜひまた遊びにきてくださいね! (2020年12月13日 18時) (レス) id: 250d3608a6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:Nono | 作成日時:2020年10月29日 23時