9話(柳田将洋) ページ10
今日のゲームは戦力がちょうど分散されるように、監督の采配で2チームに分けて行われている。
祐希は最初のサーブを相手コートにいる清水さんに向けて強く打った。
清水さんはそれを少しバランスを崩しながらもレシーブして、セッターに上げる。
さっきまで私情入りまくりだった祐希も、試合が始まったコートの中ではまるで別人だ。冷静に周りを見れているし、ミスをした時の微調整も早い。スパイクのフォームも洗練されていて、歳下ながら学ぶところばかりだ。
ふと隣のAちゃんを見ると、すごく真剣な顔でコートを見つめていた。ファンの子達の目つきと全然違って・・・すごく静かな瞳だ。でもその静けさの中になにか強い芯のような、強い意思のようなものを感じる。
その眼差しがなんだか無性に気になって、いつの間にか俺は口を開いていた。
「・・・Aちゃんはバレーやったことあるの?」
「うーん、高校の体育レベルなら。祐希の練習を見に行った時にちょっとかじった事もありますけど・・・わたし球技のセンスはないみたいで」
「そうなんだ。中学も祐希と同じだったんでしょ?バレー部のマネージャーとかも考えなかったの?」
「そうですね、幼稚園に入る頃からバレエとフィギュアも始めてとにかく夢中になってたのであんまり。それに・・・」
祐希のスパイクが鋭く決まった。満面の笑みでチームメイトとハイタッチを交わす祐希を、Aちゃんは興奮するでもなくただじっと見つめている。
ゆっくりと息を吸うと、俺の方を見ることもなく、そのまま話を続けた。
「・・・わたしも祐希と一緒に跳びたいって、思っちゃったんです。
全然違う競技ですけど、祐希の横に並んで、胸をはって、
一緒に高く跳びたいなって」
そうゆっくりと話してくれた横顔から、なぜかすごく惹きつけられて目が離せなくなっていることに気づく。
自分の中で単なる仲の良い後輩の幼馴染という存在が、徐々に変化していくのを感じた。
−−この子が祐希に抱いてる気持ちは、憧憬だ。
全く違う競技なのに、今跳んでいる祐希の飛ぶ姿に、この子もまた惹きつけられたんだ。
そして祐希を見つめる真剣な眼差しに、俺自身も魅せられたことにも自覚する。
よりによって、祐希が好意を抱いている幼馴染を好きになってしまうなんて。それも、その男を見ている横顔に恋に落ちるとは−−
「ゆうき、ごめん」
誰にも聞こえないように、口の中でそう呟いた。
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作者名:のの子 | 作成日時:2015年12月14日 13時