19話 ページ20
「・・・Aはさ、多分自分に甘い環境じゃなくて、厳しい環境の方がスケートを楽しめるんじゃない?」
「・・・え?」
「スランプだった時もサボりたいとか、スケートやりたくないとか、俺一度も聞いたことない。
向上心っていうかさ・・・もっと跳びたいって気持ち、すごく強いから」
顔を上げると、いつの間にか祐希が側まで来ていた。
食卓に座るわたしの横にしゃがんで、こちらを見上げてくる。
「−−だからさ、Aの思う通りでいいんじゃないかな。俺はAを応援したい。こんな跳べるんだぞって、跳んでみせますよって、コーチに見せつければいいじゃん」
Aならできるよ。祐希はそう言って微笑みながら、わたしの頭を撫でてくれた。
思わずじわりと、涙が浮かんでくる。
どうしてこの人は、こんなに他の人に優しくできるんだろう?昔から無条件で人の背中を押して頑張れって応援してくれる祐希に、わたしは何度も救われて。
−−わたしはこの人に、なにかできているんだろうか。
「わ、え、いやちょっとA泣かないでよ!」
「・・・っふ、うぇ・・・だってゆう、きが・・・」
「あぁもうほら、ティッシュ!目ぇ擦らない!」
祐希が慌てたようにティッシュで目元を拭ってくれる。
困ったような顔をしながら、しょうがないなぁと言って頭を撫でてくれた。
「Aが頑張ってるの、コーチもわかってるよ。だから大丈夫。」
「・・・うん・・・・・・わたし、祐希みたいになりたい」
「・・・え、俺!?突然どうしたの!?俺後ろ向きで滑れないよ?氷の上じゃジャンプもできないし」
「ふふ、スケートはポンコツだもんね・・・ありがと、祐希。元気出た」
「・・・その通りだけど、一言余計。でも、やっと笑ってくれてよかった」
ホッとした様子で言う祐希に、知らず知らずのうちに心配をかけてしまっていたことに胸が苦しくなる。
「ご飯冷めちゃうから早く食べなきゃね」というと、祐希が慌てたように席に戻って「冷めてても美味いから大丈夫!」とご飯を美味しそうに食べてくれた。
絶対温かい方が美味しいのに。必死にフォローしてくれる祐希が嬉しくて思わず笑うと、祐希も笑い返してくれて、二人してクスクスしばらく笑った。
−−ずっとこんな関係が続けばいいのに。
そう思う傍で、「本当にそれでいいの?」と呟く自分には気づかないふりをした。
126人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:のの子 | 作成日時:2015年12月14日 13時