拭ったところで匂いは取れぬ ページ3
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「…合格だ。よくここまで頑張ったな」
Aの一撃を受けた義叔父が刀を鞘に納めて呟いた。そして、熱くなる体を冷まさせようと深く息を吸う少女を優しく抱きしめた。最終選別を受ける為に、呼吸を習得し自身に攻撃を食らわせること、これが合格の条件だった。約半年という時間をかけてAは合格の為に剣を振るってきた。
「期待以上だ。お前なら必ず最終選別にも生き残れるだろう。お前は本当に凄い子だ。」
「義叔父さん…」
「この刀を持っていけ。俺が俺の師範から継いだ刀だ。きっとお前の力になる。」
次郎丸は少女を抱いていた腕を離すと、腰に差していたもう一つの刀を差し出した。Aは受け取った刀をゆっくりと抜く。鞘から抜かれた紅色の刀が太陽の光に照らされて美しく映し出された。冷たいはずの刀が生きているように温かい。これが爇の呼吸の為の特別な刀なのかもしれない。受け取った刀を自身の腰にそっと差す。
「ありがとう義叔父さん、次郎丸さん。」
「…お前にその名で呼ばれたのは久しぶりだな、」
「生きて帰ってきてくれよ。」そう言って笑った彼の顔を私は忘れることはないだろう。
最終選別へと出向く前夜にAは髪を切った。この世界で生き残れるようにと、願掛けのために伸ばした髪だ。足元に落ちた髪を拾って焚き火の中へと放り込む。燃える炎はまるで業火のように激しさを増した。
次郎丸から受け取った刀へと少女は視線を落とす。この刀は日輪刀と呼ばれており、この刀で鬼の首を斬ることで彼等は灰となり死ぬ。まるで罪人の首を切る介錯みたいだ。Aは鬼に対しての恐怖感だとか、そんなものは感じていない。知らないものに恐怖するなんて馬鹿らしいにも程がある。
少女がただ一つ分かるのは、彼等は首を切らない限り死なないということだけだ。そして人を喰らうだけ彼等は強くなれるらしい。でも逆にどんなに強い鬼でも首さえ切ってしまえば死んでしまうのだ。
「あいつらは罪人なんだ。可哀想だという念を持ってかかるなよ。奴らに殺された人々の為に最期に地獄を見せてやらねばならん」
自身の師範が言った言葉を思い出す。鬼とは哀れな生き物だ。人として生きたのに、人ではないものにされ、人を喰らって生き残り、人に殺される。可哀想で可哀想な生き物を、最後は苦しめて殺してやらねばならない。なんて残酷な世界なのだろうか。
「嫌な世界に生まれてしまったな」
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誰かがそう囁いた
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しきみ(プロフ) - しゃろさん» コメントありがとうございます!勝手ながらにリニューアルしてしまいましたが、楽しんで頂けて何よりです!暫くは早めの更新となりますので、ゆっくりでも読んでいただけたら嬉しいです! (2019年8月31日 19時) (レス) id: 0cd86406d9 (このIDを非表示/違反報告)
しゃろ(プロフ) - コメント失礼します。リニューアルされる前のお話も好きだったのですが、こちらのお話も読み応えがあり、以前よりも読むのが楽しくなりました。あなたの書く文章がとても好きだなあと感じています。季節の変わり目、体調などにお気をつけて更新お待ちしております。 (2019年8月29日 23時) (レス) id: 29ef3d46ba (このIDを非表示/違反報告)
りんご - お話とても面白かったです!金平糖のことなのですが、織田信長の好物だったらしく、ポルトガル(?)との貿易で入手したらしく活躍した部下には直々に渡していたようですよ。 (2019年7月10日 18時) (レス) id: 7ea393d4f2 (このIDを非表示/違反報告)
しきみ(プロフ) - あいうえおさん» ありがとうございます!早く他のキャラクターも出せるよう大急ぎでお話進めていきたいです!頑張ります! (2019年7月9日 0時) (レス) id: 0cd86406d9 (このIDを非表示/違反報告)
あいうえお - とっても深いお話でいいなと思いました!更新頑張ってください! (2019年7月8日 7時) (レス) id: d4ea0d195c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:しきみ | 作成日時:2019年7月7日 5時