32.あちゃみという看守 ページ42
「がっちゃんがうなだれてるー」
「…ちゃみん？」
机に突っ伏して頭を抱えていた、昼頃。
僕の前に、明るい笑顔を見せて現れたのは看守のうち一人、あちゃみという女性だ。
「うわぁ。会議室で何やってんだかと思って心配しにきたけど…この散らかり具合は何」
あはは、と苦い笑いをこぼす。
散らかっている、というのは、しにがみの紙尋問の用紙、計15枚。この回答の意味はなんだ、とか言っていることの含みとかをあれやこれや頭にぐるぐるさせていたら、そのうち思考がパンクして燃え尽きていた途中だったのだ。
「……だって。俺スクールカウンセラーじゃないんだよ」
「なになに、手伝ってあげようか」
「ちゃみんにはあんまり期待してない」
「なにおう？！」
私をばかにしたなー、という声が会議室に響く。俺等の関係といえば、いつもこんな感じだった。
そう言うとちゃみんは、机に散乱した尋問用紙のうち何枚かを手に取る。「へー、こんな質問してんだ」だとか言って暫しの間、その紙を見つめていたが、ふとあるものを見て体を止めた。
「……ぺいんとについて聞いたんだ」
「ん？あぁ…」
そういえば、ぺいんとの担当看守はちゃみんだったかと、回らない頭で考える。
「…ぺいんとさぁ。たしかにそっちのしにがみと仲良い様子は度々見かけるんだよね」
「俺も」
よほど気が合うのか、毎日自由時間の隙には大体二人で話し込んでいる様子が見られる。内容は他愛もないもので、平和的で、いつもどちらかがツッコミとボケ。
「不気味かぁ」
「怖いんだって」
「…がっちゃん、実はこれあたしも思ってるんだよね」
「ほぉ」
続きを促すと、話はすんなりと出てきた。
「…個室に様子を見に行けば、にこにこしてる時もあるし。でも食事中はなんか事務的というか…生きるためだから食べてるってような無表情で…。
楽しいんだかつまらないんだかよくわかんない。みたいな？」
「……はて、それも罪に関わってんだかなあ」
対面尋問が待ち遠しいね、と彼女は一言つぶやく。
「難しいね。スクールカウンセラーもこんな気持ちかな？」
「どうだか。ちゃみんはぺいんとに何聞くか決めた？」
「んー、まだ」
「そっか」
そうしてその後も、いくつか日常の話をしてちゃみんとは別れた。
『楽しいんだかつまらないんだかよくわかんない。みたいな？』
ちゃみんのあの言葉が、いつまでも俺の思考をループしていた。
33.囚人番号002＿紙の尋問→←囚人&看守立ち絵(見なくてもOK)
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作者名：白熊 | 作者ホームページ：
作成日時：2023年12月24日 10時
