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30.狂気享楽 ページ38

その頃。噂のしにがみは、自分の牢屋の前で立ち尽くしていた。


そこはしにがみが最初にいた場所。大広間と言われても納得する空間で、丸い形で10人分の牢屋が収まっている。


しにがみは、ふと。考える。
人間っていうのは、その状況下に置かれたら割りと適応できてしまう生き物なのかもしれない、と。


ふと、考える。
僕っていうのは、声を上げて目立てるタイプじゃないけど、人からのいびられ役でも楽しかったんだな、と。


ふと、思う。

この異様な状況に、ツッコもうともみんな半ば諦めていて。
なんでかな、






それが、嬉しい




「しにがみ!!!!」





ドンッ、と肩を叩かれたような気がした。

視線を上げた先で、いの一番に目についたのは、焼け付くような赤い髪。それに妙に似合わないカチッとした看守服。作っているのは柔らかい表情で、グレーの袖から伸ばされるきめ細やかな薄い肌色。手の甲は、黒い手袋で隠されていた。



「……かん、しゅ。さん?」
「うん、看守。看守とも。」
「とも?」
「ん、俺の名前。」


いきなりの衝撃にびっくりして、途切れ途切れにしにがみは言う。
それに対しても、ともはただただ緩そうな表情を浮かべた。


「食事、終わったの?」
「…ずいぶん前に。」
「美味しかった?」
「えぇ」
「みんな今どこにいるの」
「さぁ。多分、個室だと思います」
「そうなの?」
「うーん。僕は外のほうが好きなので」


一見すると無愛想に見えるしにがみの返答も、もう実はそんなに無感情ではなく、笑顔で受け答え、楽しそうにそう返していた。
ともはその返事に満足そうに相槌を返す。第三者がこれを見たら、まさかヒトゴロシの囚人とそれを管理する看守さまだとは思わない、思えないだろう。


「えっと……とも、看守?こそ、さっきまで何話してたんですか」
「別に呼び名はなんでもいいけどね。 君達に関すること?かな」
「それはそう、でしょうよ」


同い年ぐらいなのに、身長差があって。笑い合っている二人のそれは、兄と妹の会話にも見えた。
また、ぼんやりとしにがみは追憶する。

ここは確か、僕らを『みる』場所だって、あの子が言ってた。
試されると。歌として、僕らを見るらしい。


その瞬間を思うだけで、胸が弾んでくる。



「ここの生活はやっぱりストレス?」




ともが少し、不安そうにそう問うてくるのに、
しにがみは変わらずの笑顔で返した。





「いいえ。僕としてはむしろ、楽しいですよ」

31.001番の尋問→←作者よりヒント



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作者名:白熊 | 作者ホームページ:   
作成日時:2023年12月24日 10時

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