24.囚人番号008の困惑 ページ30
Nakamuが部屋に入り、慌ただしく身だしなみを整えに行く。
クミはその様子を一人ぽつんと眺めていた時間。
囚人番号008番は、困惑していた。
囚人服の差し色は薄いピンク色。顔には、でかでかと「天」などと楷書体で書かれた和紙が貼り付けられている。和紙は和紙なので、よくよく見れば顔も透けているし、隠すためのものとは思えない。
実際は、まぁ隠す意味もあるのだが。
どういう仕掛けなのか、ちゃんと前は見えているようだし、ふらついていたりもしない。「そういうものなのだ」と考えたほうが楽だろう。
名乗る名前は「ロボロ」という。抑えられた前髪とショートに揃えた、つやつやと光る焦げ茶の髪。
で、彼が今何に困っているかと言うと、
「…………………004番の担当でしたよね？」
「はい。004番たらこの担当看守バステンです」
「…………昨日、俺の牢も個室も鍵の開け閉めしてましたよね？」
「はい」
「…………………俺の担当看守は誰ですか？」
「008番ロボロの担当看守のバステンです」
「意味わかんねーから！！！！」
横に切込みが入った囚人服の袖を、おもいっきり床に叩きつけた。
「むしろ困惑してるのは俺のほうですよぉ。なんか俺だけ最初鍵2つ付いてたんですよ！なんで看守7人とかいうキリ悪い数字にしたんでしょうね？」
「知るか！！」
「子供なのにツッコミがしっかりしてますね〜」
「大人じゃボケ！！！」
けらけらと笑う自分の担当看守を前に、ロボロはまた腕を叩きつけた。
子供と呼ばれた原因だが。ロボロはここの誰よりも小柄であった。バステンの目測ではおそらく140行くか行かないかぐらい。それなのに割りとしっかり筋肉がついた腕や胴。…それも全部囚人服で隠れてしまっているわけだが。
「ここ何？ブラックなんですか？看守10人雇えばいいものを……」
「人件費削減でしょう」
「うわ、闇が…てか上司誰だよ」
「さぁ。俺等の上司はトラべぇっぽいですけど」
「トラべぇ…って、アレ？白くてレジ袋かぶってる？人形みたいな？」
「それです」
「それなのか………」
看守たちの適応が早すぎて逆に困っている。いや、看守な以上、俺等よりここのことを知っててリードしてくれなきゃ困るのだが。
ロボロは自分のヒトゴロシに心当たりがある。自分の罪も自覚している。監獄に閉じ込められるのはもうしょうがないことなのだろうということも分かる。
でも、どうにもこの監獄内の緩い空気はどうなのかと、誰よりも頭を抱える苦労人だった。
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作者名：白熊 | 作者ホームページ：
作成日時：2023年12月24日 10時
