23.囚人番号006_自己紹介 ページ29
がちゃん、と小気味よい音が鳴った。
それだけだった。彼女は「もう出てきてもいいよ」なんて声をかけることはできないし、そもそも声が届くかどうか。彼女自身実は、今更声が出せるのかどうか不安である。
と、部屋から慌ただしい音がする。ドッタンバッタン…ほどではないが、バタバタはしている。
間もなくしてバン!!と大きく音を立ててドアが開いた。クミは反射的に身を引いたようだが、実のところ心臓がバクバク鳴っている。
「ごめんなさい!8時だと思って全然身だしなみ整えれてなくて…‼」
息を切らしながら出てきた彼は、言う通り髪の毛もまだハネている。櫛でとかれた様子もない。ぺたんと下がった髪から片方だけ見える左目が、まだ瞼が重いのか半眼開きになっていた。
「………あの…お、こってます?」
と、そこでクミは気づいた。そうだ、ともがいないから、翻訳も無いんだった。そしてこちらの意図も汲み取ってくれるわけではない。看守と呼ばれる立場に無言で見下されたら、そりゃあ威圧感があるだろうし、なんせ警棒も扱っていた人間である。
慌てて胸ポケットを探った。
『大丈夫
まだ ゆっくりしてていいけど』
こちらも焦って綴ったためか字が乱れている。筆談というものに慣れていないのもあるのか、些か言葉不足でもあった。
「あえ……、そうですか?」
囚人服とリンクした、蛍光色のような水色の目が小さくなって、クミの深い青色の目を覗く。
別に身長が低いわけでもない。ただ完全に指先まで隠された袖と、ゆったりした裾と、フード付きの囚人服。きつく巻かれている箇所もあれば、緩めにされた箇所もある拘束具を見ると、なんだか幼く写って、クミは可笑しくみえて仕方なかった。
「名前まだでしたっけ?えっと… 俺、
返答が無いからか、段々と小さくなっていく声。クミ自身、もし喋るのが億劫でなかったとしても、ここで気の利いた返答はできていなかった気がする。
自分の声なんて、あってもなくても変わらないようなものだ。
「……あ、あの、看守さんのお名前…」
自信なさげにかけられた言葉に、クミはまた紙を一枚取った。
『クミ 多分 担当看守。
Nakamu、これで合ってる? よろしく』
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作者名:白熊 | 作者ホームページ:
作成日時:2023年12月24日 10時