22.視点は変わる ページ28
ともが部屋で看守服に手こずっている間。暗い茶髪を揺らしながら、淡い光を頼りに壁伝いに進む少女がいる。
クミだ。
クミの周りには常に仲間がいて、それでいて孤高であった。一匹狼、というわけでもない。
彼女は喋らないのである。
少なくとも、とも達が見ている限りで、声帯を震わせたことは一度も無かった。
喋らない、のか。はたまた喋れない、のか。それは知る由もないことだが、主張する理由は『面倒くさいから』の一点張り。そこにとも達も深く突っ込むことはない。
これからは囚人たちともコミュニケーションを取らなくてはならない。彼女は少し考えた結果、筆談をすることにした。今まではともが隣にいて翻訳してくれていたから、もしくはチャット機能があってそれで意思疎通を測っていたからなんとかなっていたが、囚人たちとなるとそうもいかない。
部屋にあった大量の小さなメモ用紙を束ね、胸ポケットに押し込んでいる。ボールペンも挿している。胸ポケットの責任が重大すぎるが、彼女は気づいていない。そしてどうせ筆談になるからと、トラべぇが他の看守の倍以上に部屋に紙を仕込んでいることも知らない。
また彼女は要領が良いのか、看守服を脱いだ時にそれを逆算し着る方法も頭に入れている。他の看守よりも早く部屋を出ていたのは、それが原因だろう。そしてそれは彼女のプライド故かもしれない。完璧主義者、というわけではないが…… 彼女は自分のプライベートなことに関わられるのをひどく嫌がる。私生活に他人が入ってくる、ということが苦手なのかもしれない。ご丁寧な内線は、ひねくれた思考だが「もしなにかわからないことがあったら他の看守に聞いてみな?^^」ということのように思えて触ることができない(そもそも彼女に内線は使えるのか…?)。一応、とわざわざ服の着方をメモしたぐらいである。
そんな彼女の、小さな右手首に通された輪っかには金色の鍵がある。歩くたびにちゃら、ちゃらと擦れて金属質な音が響く。そこに掘られた数字は「6」であった。
クミは昨日のことをほわんほわんと思い返していた。006番を見ていて特に不審な点はなかった。囚人服の差し色は蛍光が強い水色で、全体的に服はだぼっとしていた。あざとく幼いイメージがある。
名前を聞いていなかったなあ、と寝起きの頭で考える。
朝食は8:00かららしい。現在時刻7:45。 トラべぇも言ってたし、もう個室開けといてもいいか…。
頭をゆるーく回転させると、彼女は片腕を上げた。
17人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:白熊 | 作者ホームページ:
作成日時:2023年12月24日 10時