no name １ (ページ5)

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「キュヒョナな？あの日、日本から帰ってきたあの日」

悪戯っ子みたいな笑顔で、私の隣に座って耳打ちする、その人。

あの時の話だ。

初めて会った、あの日に言いかけてた、あれ。

偶然訪れた日本食レストランに、偶然居合わせたその人。

「ちょ、ヒチョルさん、近い…」

「は？いーんだよ、気にすんなそんなの。でさ、あの時のキュヒョナな？」

…なんて押しの強い人なんだ。

レストランに入って、席を探して、座って、ふと顔を上げたらバチッと合った、視線。

初めて会った時みたいな、あの視線。

なのに、その人は一気に表情を変えて、

「おー！A！久しぶりじゃねーか！」

って、まるで親しい友達みたいに声を掛けてきた。

さすが、『あのヒョンはおかしい』ってキュヒョンオッパが言うだけある。

今も、私のすぐ隣、というより私にぴったりと引っ付いて、
背もたれに腕まで回して、がっつりこっちを向きながら、
ただただ、ひたすら喋ってる。

恥ずかしくて、そんな至近距離でじっくり見れやしないけど、

………すっっっごく、きれい。

肌なんてぴっかぴかで真っ白で、鼻もすらっと高くて。

緊張、する。

あまりの押しとキャラの強さと、あまりの美しさに、一緒に来ている友達は口が開きっぱなし。

顔、ちょっと、顔！やばいよ！

いち早く、そう言ってあげたい。

「おい、聞いてんの？」

「っ？！」

そんな言葉と一緒に、ぐっと近付いたきれいなお顔。

「ぶっ！おま、すっげー顔！(笑)」

ほっぺ毎押し潰されて無理矢理向けられた顔は、さぞかし面白かったらしい。

……………(怒)

いつまでもがはがは笑うそのきれいな人に、さすがの私も怒り心頭。

「…帰ります」

「あ、怒ったか？」

「失礼します」

ついさっきまで笑いまくってたのに。

すっと立ち上がった私の手を、至極自然に握って。

あの時の、しっかりとした視線がぶつかる。

「………なん、ですか」

妙な空気に、目の前の友達も固まってる。

そして、しばらくの沈黙の後。

「……ぶふっ」

って、また表情を崩して笑う、その人。

本当に、訳がわからない。

私の髪を、くしゃっと撫でて。

頬をちょっとだけ優しくつねって。

「…ごめんな、なんかお前見てると、虐めたくなる」

そう言って。

最後に、まさにアイドルって感じの笑顔を見せて。

しれっと私たちの分まで払って。

キム・ヒチョルは去っていった。