ウタカタノオト3 (ページ7)

今日:13 hit、昨日:3 hit、合計:6,996 hit

#2 ページ7

全日本選手権は毎年開催され、今年はオリンピックの選考会を兼ねているのは周知の話。

通常、それに出るためには地方大会を順に勝ち上がることが条件だ。

ただし、グランプリシリーズなど海外の試合に出場する場合や、前年の全日本選手権で上位に食い込んだ場合は、本来でなければならない地方大会が免除される仕組みなのだ。

私の場合、NHK杯に出るから免除されるだろうとコーチが踏んでいたのだが。

「そもそも去年は1つも試合に出てないから、今年の全日本に出るなら大人しく地方大会を勝ち進めなきゃいけなかったんだよな」

少しややこしいけれど、結論、実は私の全日本選手権への出場資格は皆無なのだ。

グランプリシリーズに出るような選手は、元々前年に行われた試合などで結果を出してシード権や免除権を獲得している人が多い。

私はそれが一切ないまま今シーズンを迎えているため、全日本選手権に照準を合わせるなら各地方のブロック大会から出る必要があった。

そして、私が出るなら“近畿大会”だったらしいのだけれど。

「その近畿大会とフィンランディア杯が丸被りで……」

私たちは派遣されたフィンランディア杯の方を選んだので、その時点で今年の全日本は不出場が確定していたらしい。

まあ新参者がそんなコンスタントに大きな大会に出られるはずはなかったということだ。

そんな風に私はすっと納得したのだが、コーチは違った。

「そこまで考えてやれなかったのはホント俺の責任だわ……」

「もう分かりましたって。何回持ち出すんですかその話」

せっかくNHK杯に出場できるのに、そしてもうそこに向かっているのに、いつまでもクヨクヨされたら困るのだ。

「しかも目指していたのはNHK杯で、それに出るためにフィンランディア杯でミニマムスコアを獲ったんですから、結果的には目標達成できてますよ。……ってこの話昨日までに何回かしてますけど」

「いやあ、せっかくなら連れていってやりたかったんだよ全日本……」

さて、何をどう伝えればコーチは静かになるのだろう。

もう“連れていってやりたかった”というより、コーチ自身が“単に行きたかった”んだろうなと思い始めた。