ウタカタノオト3 (ページ5)

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これは誰かが俺の噂をしているに違いない。

前触れもなく出てきたクシャミは大体そうなのだ。相場が決まっている。

グランプリシリーズ初戦のロステレコム杯を2位で終え、NHK杯に向け練習を重ねている最中、突然出たクシャミをそう推し測る。

ファンの方が自分の話題で盛り上がってくださっている、とは考えにくい。
こう言ってはなんだけれど、もしそうならほぼ年中クシャミをする羽目になるだろう。

誰がどんな類の話をしているかなど予想もできないが、たかがクシャミに何故だか引っかかった。

それはそうと、最近嬉しい知らせがあった。
NHK杯にAちゃんが出場することになったのだ。

エントリーの一覧に名前があったから、出るのは確定なのだろう。

無名の選手がシニアデビューシーズンでグランプリシリーズ初参戦。しかも日本大会。
実力的には申し分ないと思うけれど、実績がないのを考慮するととんでもない大型ルーキーだと思う。

まさか本当に実現するなんて。

Aちゃんと最後に話したのは、彼女が夏にトロントへ練習に来たときだっけ。
頑張るのはAちゃんの方、なんて言ったけれど、俺もちゃんと結果を出さなければ。

今季まだ1勝もできていない。
何なら初戦を落とすのは平常運転、なんて出回ってしまっているくらい。

ピークはオリンピックとか本当に大事な試合に合わせればいいし、ブライアンともそう話し合っているけれど、負けて悔しくない訳はない。

NHK杯で優勝できれば、ファイナル5連覇だって見えてくる。

落とす訳にはいかない。
今シーズンは勝たなければ意味がない。

1位を目指すのはもちろんだけれど、演技内容はちゃんと次に繋がるものにするのが大前提だ。

クシャミなんかへでもない。まずは体調整えて、日本へ向かうための準備をするのが第一優先だ。

そう意気込んで、高難度構成のプログラムを滑り込むため、使用楽曲を再生させた。

俺の体調が崩れたのは、その数日後のことだった。